アメリカが「2度目の南北戦争」前夜である理由 内戦リスクを高める「アノクラシー・ゾーン」

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日本にいるとなかなか実感できないが、2021年1月6日のトランプ支持者たちの連邦議会乱入はアメリカ市民たちの「法の支配」への信頼を深く傷つけた。現職の大統領が自動小銃で武装した市民に向かって、ホワイトハウスを守るために「今命をかけなかったら、この国は滅亡するぞ」と獅子吼して、連邦議会攻撃を指嗾したのである。

「アノクラシー」が内戦リスクを高める

ポリティ・インデックスという指標がある(この本に教えてもらった)。ある国がどの程度民主的か、専制的かを点数評価する。完全な民主主義政体を+10、完全な専制政体を-10として、21段階で評価する。例えば、ノルウェー、ニュージーランド、デンマーク、カナダなどは+10である。

これらの国では、国政選挙が公正に営まれ、特定のマイノリティーの差別・排除がなされず、政党は国民の意思を適切に代表している。-10は北朝鮮、サウジアラビアなど。国民には為政者を選ぶ権利がなく、為政者は法に縛られることなく、やりたい放題のことができる。

ポリティ・インデックスが+6から+10の国は「完全な民主主義国家」とみなされ、スコアが-10~-6は「専制国家」とみなされる。そして、その中間に一する+5~-5のスコアの国は「アノクラシー(anoracy)」と呼ばれる。

「アノクラシーでは、国民は多くの場合選挙を通して民主的統治に関与するが、他方で権威主義的な政治権力の多くを手中に収める大統領などが現れることもある。」(38頁)

アノクラシーは「半民主主義(semi-democracy)」「部分的民主主義」「ハイブリッド民主主義」とも呼ばれる。

ある国がアノクラシーになる仕方は2つある。民主政が崩れて専制政治に移行する過程と専制政治が崩れて民主政に移行する過程である。

この概念が注目されるようになったのは、政治的不安定をもたらし、内戦が始まるきっかけとなるのは、貧困、民族的多様性、不平等、腐敗などよりも、その政体がアノクラシー・ゾーンにいるかどうかだということが統計的に明らかになったからである。

つまり、どれほど国が貧しくても、エスニックグループに分断されていても、貧富の格差が大きくても、政治腐敗が進行していても、その国の政体が完全な独裁制であれば、内戦は起きにくい。政体が流動化したときに内戦は起きる。

「内戦リスクの最も高い国は、最貧国でも不平等国でもなかった(…)。民族的・宗教的に多様な国でも、抑圧度の高い国でもなかった。むしろ部分的民主主義の政治社会において、市民は銃を手にし、戦闘に手を染める危険性が高かった。」(40頁)

独裁者が倒され、専制政治が終わり、社会が民主化に向かう……という状態を私たちは端的に「よいこと」のように思いなしているけれども、それはどうやら間違っていた。

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