アメリカが「2度目の南北戦争」前夜である理由 内戦リスクを高める「アノクラシー・ゾーン」

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現実には、国が民主化してゆく過渡期に-5~+5の「アノクラシー・ゾーン」に入ったときに、最も内戦リスクは高まる。イラク、リビア、シリア、イエメン、ミャンマーがそうだった。逆のケースもある。民主主義国家が専制国家に「退行」するときも内戦リスクは高まる。ハンガリーがそうだし、ブラジル、インド、そしてアメリカもいまポリティ・インデックスのスコアが下降している。

アメリカは「いつ内戦が始まってもおかしくない国」

アメリカは2021年1月6日の連邦議会へのトランプ派の乱入時点で、ポリティ・インデックスが+7から+5に下降した。「アノクラシー・ゾーン」に踏み入ったのである。

「かくしてアメリカは2世紀ぶりにアノクラシー国家へと変貌した。(…)私たちはもはや最も伝統ある一貫した民主主義国家にはいない。」(183頁)

これはかなり衝撃的な事実である。アメリカは「いつ内戦が始まってもおかしくない国」になったのである。

その変化に不安を感じているアメリカ市民もいるだろうし、そんなのは誇大妄想だと笑い飛ばしているアメリカ市民もいるだろう。でも、アメリカがアノクラシー・ゾーンに入ったことは学術的事実である。

とりあえず、この事実を重く受け止めるアメリカ市民にとっては、喫緊の政治的課題は「どうやって内戦を回避するか」というものになる。

「今後アメリカの課題は、有権者が自らの民主主義が適切に機能し、またそれが身の安全に資すると確信しうるか否か、そして政治指導者の手によってそのための防護柵を再構築しうるか否かにかかっている。」(185頁)

これから先アメリカが内戦に向かうのを食い止めるために何ができるか?

こういうタイプの問いを前にしたときに、アメリカ市民にはとりあえず参照することのできる書物がある。『ザ・フェデラリスト・ペーパーズ』である。

『ザ・フェデラリスト・ペーパーズ』は、独立戦争で勝利した後、アメリカ合衆国憲法の批准に至るまでの時期に書かれた85編の連作論文である。筆者はアレクサンダー・ハミルトン、ジェームズ・マディソン、ジョン・ジェイの三人。

合衆国は13の植民地が集まってできた。13州は独立戦争前からそれぞれに固有の憲法を持ち、行政組織を持ち、軍を持つ独立した政治単位であった。独立後、それまで州の持っていた権限をどこまで連邦に委譲し、どこまで州に残すか、それをめぐって11年間にわたる激烈な論争が展開した。フェデラリストたちは州の権限を剥奪して、強大な連邦政府をつくることをめざしたのだが、その最大の理由は「内戦に備えて」だった。

独立直後のアメリカ合衆国はイギリス、フランス、スペインというヨーロッパ列強に加えてネイティブ・アメリカンとの軍事的対立リスクを抱えていた。仮にこれらのうちのどれかと戦闘状態に入ったときに、戦争の主体は誰になるのか。もし、州政府が軍事的な独立を望むのなら、州政府はとりあえず単独で外敵に対処しなければならないことになる。

「もし、ある州が攻撃された場合、ほかの州はその救援に馳せ参じ、その防衛のためにみずからの血を流し、みずからの金を投ずるであろうか?」そうフェデラリストは問うた。

あるいは「アメリカが3ないし4の独立した連合体に分裂して、1つはイギリスに、1つはフランスに、1つはスペインの支援を受けて」、代理戦争が始まった場合に、アメリカ国民はどうふるまったらよいのか、そうフェデラリストは問うた。

独立直後のアメリカ合衆国においては、いずれも蓋然性の高い未来であった。

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