川内原発再稼働へ、募る地元の不安と疑念 九電はこれまでに進めた安全対策を誇示

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薩摩川内市の南に隣接するのが、いちき串木野市だ。商店街はこちらも負けず劣らずシャッター街化が進んでいる。タクシー運転手は「薩摩川内のほうがまだマシ」と言う。

いちき串木野商工会議所の末吉清盛・中小企業相談所長は、市内の景気について「非常に悪い。有効求人倍率もここだけ下がっている」と話す。さつま揚げやマグロなど「食のまち」に活路を求めるが、努力はまだ実を結んでいない。川内原発については「市内には下請け業者もいるので、産業界としては再稼働に期待する声も多い」という。

同市は市全体が川内原発から30キロメートル圏内に入り、北西部の羽島地区は原発からわずか約5キロメートルという距離だ。薩摩川内市の東部地区よりもよほど原発に近い。防災避難計画の策定が義務づけられている一方、再稼働の条件となる「地元同意」を行ったのは薩摩川内市と鹿児島県のみで、いちき串木野市は「地元」に含められていない。

この、いちき串木野市で昨年6月、実効性のある避難計画がない中での川内原発の再稼働に反対する署名が、市の人口(約3万人)の過半数に達した。これを受け同市議会は6月末、実効性のある避難計画の確立を求める鹿児島県知事宛ての意見書を採択。9月末には、再稼働の同意が必要な地元に同市を加えるよう求める知事宛ての意見書を採択した。

田畑誠一市長は代替エネルギーが確立するまでは原発再稼働やむなしとの立場。だが、「市民の間では、要援護者の避難態勢や複合災害への懸念があり、福島事故が完全に収束していない中での原発の安全性に不安を持っている人が多い」との認識を示すとともに、「地元同意の範囲を制度的に明確にすべき」との見解を述べている。

避難計画は不備だらけ、合理性を欠く「地元」の範囲

依然として避難計画の実効性には疑問が多い。住民の一人は、「この地域に多い風向きを考えれば、今の避難先はかなり危険だと思う」と話す。

避難計画の実効性など多くの問題を抱えたまま走り出すのか(撮影:尾形文繁)

市のまちづくり防災課によると、「県が風向きによって避難先を調整するシステムをつくったが、具体的な代替避難先は確定していない」(久木野親志課長)という。また、避難訓練については、市内16地区のうちまだ5地区でしか行われていない。避難計画を統括する県の対応が後手に回っている印象が強い。

地元の範囲についても、県知事は「県と薩摩川内市で十分」との考えを変えず、国は判断を避けたままだ。事故時の放射能汚染の程度は行政区画で変わるわけではなく、距離と風向きで変わる。住民への影響度を踏まえれば、今の地元の範囲の決め方が合理性を欠くのは明らかだ。

今なお積み残された課題や疑問は多い。それでも再稼働へ向けた審査は最終段階を迎えようとしている。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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