「自分のことは忘れてほしい」子を手放す親の迷い 余命3カ月の父の視点から考える特別養子縁組

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大場氏は「古い記録を読むと、リアルな母親像を伝えようと工夫してある。洋服や髪型など具体的な事実は、ジョンがマイケルのためにボックスに入れた遺品などのように、『生みの親は自分を愛してくれていた』と子どもが実感するための助けになるはず」と話す。

ISSJは1952年の設立当時から現在までの養子縁組の記録を永年保存しており、ファイルの中に保管されている実母の直筆の手紙や児童調査の記録は、「出自を知りたい」と願う養子にとって貴重な資料になる。

養子と知って動揺した子から問い合わせも

生まれたばかりのマイケルを抱く、生みの母親の写真も、思い出ボックスに入れられた。ジョンはソーシャルワーカーに「妻は夫と息子を捨てて母国に帰った」と説明したが、母親は異国で暮らす心細さや、子育ての困難を感じていたのかもしれない。葛藤し、究極の選択の中で決断したはずである。写真からは幸せそうな様子がうかがえる。夫と出産の喜びを分かち合った時期もあったとわかる。

大場氏は「生い立ちをマイナスのイメージで受け止めるのではなく、多角的にとらえることが養子にとっては必要」と話した。

ISSJにはルーツ探しの相談窓口がある。養子から「自分のルーツを知りたい」という相談が寄せられるようになったので、2020年12月に窓口を設けたところ、2020年度は28件、2021年度は25件、2022年度は2023年2月末までに45件の相談が寄せられた。

相談者は20代、30代が多く、「生みの親に会いたい」「養子に出された理由を知りたい」「自分に関する情報集めをしたい」などが主な内容である。「自分は養子である」と知って動揺して問い合わせてきた当事者もおり、ISSJがあっせんしたケース以外の当事者からも相談を受けている。

相談があった場合には、対面またはオンラインで面談し、ルーツ探しの目的や理由を聞いて、現在どのような記録や書類を持っているか。また、ルーツを知ることのリスクや注意点なども紹介する。

そのうえでルーツを探すことに合意形成がされれば、身分証明書などで本人を確認し、個別に支援に応じる。公的書類の取得や生みの親への連絡支援なども行っている。

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