「自分のことは忘れてほしい」子を手放す親の迷い 余命3カ月の父の視点から考える特別養子縁組
大場氏によると、日本において、この父子のようなケースの場合、子どもは児童相談所(児相)のケースワークによって、まず児童養護施設に入ることが一般的だという。「何らかの事情によって生みの親と暮らしていない子ども」の約8割は施設で過ごしているのが現状である。
逆に欧米は、家庭養育の割合が多数を占める。この映画の舞台である北アイルランドに近いイギリスでは、要保護児童が家庭へ委託される割合は73.2%。このほかオーストラリア92.3%、カナダ85.9%、アメリカ81.6%と、欧州諸国も5割前後となっている(2018年前後の数値)。石川氏は、ジョンが必死で新たな家族を探す理由について、次のように推測する。
「欧州は基本的に家庭養育が中心です。なので、託した家庭でうまくいかなければ、次、次と子どもがたらい回しにされるリスクがあります。だからこそ父親は『息子に合った家族を見つけておきたい』と思ったのでしょう」
大場氏は、養子当事者が養親を語った中で印象深い言葉を挙げた。
「両親(養親)がいつも自分の味方でいてくれた」
「養父が海のような存在で、いつも自分を見守り、選択を尊重してくれた。今、父のような人と結婚し、子育てを楽しんでいる」
そのうえで、「生みの親との離別を経験した子どもにとって、育ての親が癒やしの存在になれることが求められる」と話す。
特別養子縁組は10年間で倍増
日本における「里親制度」と「特別養子縁組」の違いは、親権者が実親となる里親に対し、特別養子縁組の場合は戸籍に「長男」「長女」と記載されるなど、法的にも親子となる。
2016年の児童福祉法改正で、生みの親と暮らしていない子どもは原則、家庭で育てることが国や自治体の責務であると定められ、国は家庭での養育を推進している。
この結果、里親等委託率の全国平均は2015年度末に17.5%だったが、2020年度末には22.8%に上昇した。さらには特別養子縁組についても、2020年の民法改正によって、養子となる対象者の年齢の上限が「原則6歳未満」から「原則15歳未満」に引き上げられた。