「働くママになれる人」業種・職種で限られる現実 働くママの増加を全く喜べない「これだけの理由」

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一方で、当たり前のこととして産後も働き続けたいという女性の意識と現実とのギャップも深刻だ。日本労働組合総連合会が2013年に行った「マタニティ・ハラスメントに関する意識調査」では、在職中の20~40代の女性に「女性が働くことと子育て」について考えに近いものを尋ねている。

10年も前の調査時点で、トップが「できるなら自分の希望として働きながら子育てをしたいと思う」(51.0%)が半数を占めていた。2位は「経済的な理由で働きながら子育てをしなければいけないと思う」(27.4%)と、回答に大きな差があるのだ。

就職情報会社「マイナビ」が今年2月に発表した「マイナビ2024年卒大学生のライフスタイル調査」では、「夫婦共働きが望ましい」と答える大学生・大学院生の女子は73.3%を占めている。男子は64.1%で調査を開始した2016年卒以来、過去最高を更新した。

また、「育児休業を取って子育てしたい」割合は、男子が61.3%、女子が63.2%を占めるなど、若い世代の意識は変わっているが、企業や社会が変わっていないのだ。

育休取得者は増えているが、非正規雇用者の割合は

例えば、非正社員の育児休業取得率の低さは、子育てへの企業の無理解を示す。育児・介護休業法は何度かの法改正により、非正社員の取得要件が緩和している。以前あった「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が2022年4月から撤廃された。

今では、①日々雇用でないこと、②労使協定で1年未満の非正規雇用者を育休対象者として除外していないこと、を除けば、「子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない」ことだけが要件になったが、実際に非正規雇用で育児休業を取る人数は限られている。

育児休業給付金の初回受給者数を見ると、2005年度の初回受給者数は全体で約11万8339人、うち非正社員を指す「期間雇用者」は2242人で全体の1.9%だった。年々、育児休業の取得者は増えており、2021年度は全体で44万4727人、うち期間雇用者は2万1155人となったものの、非正社員で育休を取っているのは全体の4.8%でしかない。

ある企業の幹部は「業績によって雇用の調整をし、人件費を抑えるために非正規雇用を増やしているのに、わざわざ、その非正社員の待遇を厚くはしない。非正社員にまで育休を取らせるほどの余裕はない」と本音を話す。

いくら制度が拡充されても非正規労働の育児休業取得者が大きく増えるわけではなければ、非正社員にとって出産のハードルは高くなる。行きすぎた労働法制の規制緩和が少子化を招いたという関係を、もはや否定はできないのだ。少子化対策は児童手当の拡充などの小手先の対策ではなく、雇用のあり方そのものを問い直して正社員を増やさない以上、大きく状況は変わらないだろう。

子育てや介護などで労働時間に制約のつく場合でも短時間正社員などの形で雇用できるよう企業は戦略を練り、国は雇用格差を是正するため労働法制を見直し、経済政策を打ち出していく。この好循環への転換が真の少子化対策なのではないか。少子化の流れを止めるには、見過ごされがちな女性の雇用の質を高めることがカギとなりそうだ。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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