相次ぐ「がん画像検査の見落とし」から身を守る術 滋賀県内の病院で患者2人が死亡、大学病院でも
この問題の背景にあるのはCTの高速化、高精度化だ。
近年、CTは1回の撮影で体の断面を数百枚撮ることも可能で、数ミリの病変も発見できるようになっている。さらに、撮影する際は対象となる臓器の周辺だけでなく、広範囲を撮ることが多い。たとえば、肺を診るのに上半身全体を撮影するという具合だ。その結果、得られる情報が格段に増え、偶発的に別の病変が発見されやすくなっている。
「放射線診断医は基本的に、主治医がオーダーした臓器だけではなく、撮影された画像の全領域を見ています。そのため、別の病変も発見されやすいのです」(中山氏)
背景には放射線診断医の「不足」
日本は他の先進諸国に比べてCT検査が普及しており、総合病院ではおおむね導入されている。それに対し、画像をチェックする放射線診断医は現在、全国に約5600人。これは全医師の約2%にすぎない。中山氏は「肝心の放射線診断医の数が足りていない」と話す。
放射線科医は、CTやMRIなどの検査画像をチェックする「放射線診断医」と、放射線を用いてがんを治療する「放射線治療医」とに分かれている。放射線診断医は患者を直接診察することはほとんどなく、画像から病気を診断して主治医に所見を伝えることが主な仕事だ。
1日50人の患者のCTを撮影し、1人当たり平均400枚の画像とすれば、画像は全体で2万枚にもなる 。放射線診断医は日々、膨大な量の画像をみて、画像診断報告書の作成に追われてしまう。
「CTやMRIなどの検査で実際に撮影するのは診療放射線技師ですが、彼らは診断することも、報告書を作成して主治医に伝えることもできない。放射線診断医の仕事の一部を診療放射線技師に委託できれば、放射線診断医の仕事の負担を減らせますが、日本医学放射線学会はそれを容認していません」(中山氏)
一方、患者の主治医も多忙であり、自分の専門領域において、目の前の仕事をこなしていくことで精一杯なことが多い。
「巨大化していく病院組織の中では、医師同士の関係性も希薄になっていく。お互いが直接声をかけ合うようなことも少なく、伝達事項のエラーもより起きやすくなる。残念ながら、病院によってはこうした報告の伝達漏れは、日常的にある状況ではないかと思います」(中山氏)
患者の命にも直結するこうした、見落とし問題については国も対策を講じ始めている。
画像診断報告書の記載内容を主治医が見落とす事案が相次ぐ状況を受け、厚生労働省では、病院が報告書の管理体制を整備した場合に、診療報酬を加算する仕組みを2022年からスタートさせた。
だが、それだけでは不十分だと中山氏は言う。
「診療報酬の加算は管理体制整備の追い風にはなるかと思います。でも、そう簡単にはこの問題は解決しないでしょう。画像診断の報告書を確認すると未読から既読に変わるシステムも最近普及してきましたが、仕事に忙殺される医師本人でなく、看護師が医師の代わりに報告書を開いて既読にしているというケースもあると聞いています」
そのうえで、こうした事態を解決するには医師や看護師などの医療者以外の第3者がサポートし、チームで連携する形を模索する必要があるのではないかと中山氏は言う。
「伝達エラーが起こらない仕組みを作るには、医師や看護師だけではなく、クラーク(医療事務)や医療補助員などチームで共有してチェックしていくことだと思います。とくに報告書に重大な事象につながる“がんの疑い”などのパニック画像所見の記載があれば、その文字の色が変わって警告する。そんなリスク管理ができるシステムが有用かもしれません」
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