相次ぐ「がん画像検査の見落とし」から身を守る術 滋賀県内の病院で患者2人が死亡、大学病院でも

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「CT検査の見落とし予防」という面で、AI技術は今後、どのぐらい期待できるのだろうか。

「多くのベンダーが画像診断用AIの開発を進めていますが、実際はそんなに甘くはなくて、単純にAIに置き換えられない。AIを臨床で使えるところまでにはまだまだで、いまの多忙な医師の働き方を改善するまでにいたるには相当な時間がかかる」(中山氏)

なぜAIに置き換えられないのかというと、いまのAIでは“プログラムされた病気以外を見つけることはできない”からだ。そこが多角的な視点でさまざまな病気の可能性を想定し、病気を見つけられる画像診断と大きく異なる。

「もしも、腹痛で受診した患者がいた場合、体の上から下までCT撮影をしたとします。AIはお腹に胆石を見つけることができたとしても、大動脈解離を見つける学習プログラムが組み込まれていなければ、この生死に関わる重大な病気を見つけられないのです」(中山氏)

ただ、AI技術を用いた画像診断に関しては可能性がないわけではなく、肺がん検診、乳がんのマンモグラフィー検査、脳ドックでの脳動脈瘤の検査などの定期健診では今後、期待できるのではないかという。

主治医に「お任せしない」が重要

では、がんを見落とされないために、われわれ患者はどうしたらいいか。

CT検査の見落とし予防で重要なのは、医療側のシステムだけではない。患者側、つまり、一般市民の意識改革も必要だと中山氏は説く。

「多くの患者さんは、放射線診断の専門医がいることも知らないと思います。撮影されたCTを主治医が直接、読んでいると思っている。主治医はすべてを理解していて、自分の画像診断にまさか見落としがあるかもしれないなんて思ってもみないでしょう。まずはそこからの啓発が大切かもしれません」

主治医は専門の診療領域のスペシャリストだが、体のすべての臓器について詳しいわけではない。CTなどの画像についても放射線診断医に読影の指示は出すが、主治医自身が読んでいるわけではないことを患者側も知っておく必要があるという。

CTやMRIの画像を撮影した際には、念のため、「画像診断の専門家はなんと言っているか教えてください」と、患者のほうから主治医に質問してもいいのではないかと中山氏は言う。

中山善晴氏。放射線診断医であり、熊本県で遠隔画像診断サービス会社の代表を務める(写真:ワイズ・リーディング提供)

「患者さんから言われれば、主治医も画像診断をあらためて見直すことができます。それによって、がんの疑い報告などの見落としも防ぐことができるはずです」

「CT検査の見落とし」問題で見えた、現在の医療システムの課題。問題解決には中山氏が指摘するように医療者側も医師以外の人材や新たな技術も活用しながら、医療現場の体制整備を急ぐ必要がある。それと同時に、患者側ももっと自分の病気を「自分ごと」として捉え、おまかせ医療にしないことが大事だろう。

株式会社ワイズ・リーディング代表取締役
中山善晴
1995年熊本大学医学部卒業。同大学関連病院で2年間研修の後、2002年に熊本大学大学院博士課程(腹部画像診断学)修了。その後、熊本大学医学部附属病院、天草地域医療センター、熊本再春荘病院、人吉総合病院、熊本機能病院など県内多数の病院にて放射線科に従事する。2007年に遠隔画像診断サービスを展開する、株式会社ワイズ・リーディングを設立。2010年には九州ニュービジネス協議会、九州ニュービジネス優秀賞受賞。2015年には人工知能研究所を設立、『Y’sCHAIN』を開発。翌年には『Y’sKeeper』を発表。
石川 美香子 医療ライター

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いしかわ・みかこ

『メディカル朝日』など医療者向け出版物の編集者を経て、ライターとして『手術数でわかるいい病院』など医療系ムック・書籍の制作に携わる。全国の病院や医師を多く取材。

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