明治「キシリッシュ」撤退の裏にあった戦略の失敗 ガムから事実上撤退、売上高はピークから9割減

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キシリッシュが登場した1997年の翌年ごろだったと記憶していますが、私は当時の明治製菓の役員とガムとは別の仕事でお付き合いがありました。あるときの雑談でふと、

「新製品のキシリッシュの勢いがすごくいいですね」

と私が話しかけたところ、

「いやいやそんなことじゃ全然ないんですよ。なにしろロッテというガリバーが存在する市場なので」

とかなり疲弊感のある返事が返ってきたことがあります。企業同士の競争ではシェアが圧倒的な相手との戦いは基本的に勝てないことが多いものです。コーラの世界でのコカ・コーラ、マヨネーズの世界でのキユーピー、ハンバーガーの世界でのマクドナルドのような相手と同じで、ガムの世界でロッテに挑むというのはなかなかに無謀なのです。

明治が選んだ「キシリトール」という差異化戦略

では、なぜ明治がキシリッシュを出したのかというと、カギになる戦略キーワードが差異化です。これは戦略の定石の1つで、ガリバー企業に立ち向かうためには「大きな違いがある製品で戦うべきだ」という考え方です。

挑戦者の場合、もしコーラで戦うならクラフトコーラを選ぶとか、マヨネーズであればヨード卵・光を使ったマヨネーズを販売するとか、ハンバーガーならフレッシュネスバーガーのように生野菜をふんだんに用いたバーガーで勝負するのが差異化戦略です。

そして明治が選んだのが「キシリトール」という、当時日本ではまだ目新しい虫歯予防効果があるとされる甘味料を用いることでした。当時の情報としてはフィンランドなど北欧地域で虫歯が少ないのはキシリトールのおかげだと言われていて、それが配合されたガムということで発売当初から消費者の関心は高かったのです。

話が少しだけそれますが、この少し前の1995年に歯磨きの業界でちょっとした異変が起きていました。サンギという業界的には無名の企業が発売したアパガードという歯磨きが大ヒットしたのです。

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