「リスキリングせよ、さもなくば自己責任」の未来 「ガンダム」が描いた「デジタル社会」への適応
とはいえ、シャアは地球自体をなくそうというわけではありません。地球は一種の聖地として保存し、人間は宇宙に住むようにすることで、聖なる地球をこれ以上汚さないことができる。
人智の及ばないものや生命を循環させることができる地球に畏怖の念を抱きながら、同時にそれを不可侵のものだと考えるあまり、不完全な人間が独り占めしていることに我慢がならなかったのでしょう。
合理的に考えたらこうしたほうが絶対に良いはずなのに、なぜ地球に住む人間どもはその権益を手放すことができないのか。この発言の背景には、現代社会においてデジタル社会に適応できないアナログ人間たちへの「いらだち」に似たものを感じます。そしてこのような発想は、現在の欧米を支配する「テクノクラート新自由主義」を想起させます。
「低スキル=格差の原因」という思想
『新しい階級闘争』を著したアメリカの思想家マイケル・リンドによると、「テクノクラート新自由主義」は高学歴の上級階級の管理者、経営者からなり、現在の欧米のエスタブリッシュメントを占めているといいます。彼らの世界観をリンドは以下のように説明しています。
現代の北米とヨーロッパは、すでに無階級に近い社会となっており、政府が若干の低コスト介入を行えば完全な無階級社会が実現できるという仮定から、新自由主義者たちは、欧米の白人労働者階級の問題を階級制度のせいではなく、多くの不幸な個人に共通するとされる個人的な欠点のせいにすることができる。
なかでも最大の個人的な欠点は、仕事のスキルが足りないことだとされている。大不況前のバブル期に、スキル偏向型技術進歩(SBTC)理論というものが流行した。これは労働者階級の「取り残された」人々には、新しい「グローバル知識経済」の「クリエイティヴ・クラス」や「デジタル・エリート」にはもはや不要となった時代遅れの低スキルしかないことが、格差拡大の理由であると説明している。(188-189頁)
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