放置された「古民家」が"宝の山"と言える納得理由 「もったいない」から生まれた循環型ビジネス

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しかし、空き家を放置する人の側にも事情があります。規模にもよりますが、空き家を解体するためには300万〜500万円前後の費用がかかります(建坪60坪相当の古民家の場合)。また、住宅を解体して更地にしてしまうと、固定資産税が一気に6倍にまで跳ね上がるケースがあります。

つまり、経済的な理由から、古民家をそのまま放置してしまうケースが多いのです。こうして、空き家となっている古民家の数も増えているわけです。

日本政策投資銀行の「古民家の活用に伴う経済的価値創出がもたらす地域活性化」によれば、日本における古民家の空き家数は21万戸。おそらく、2033年には50万戸を超えることでしょう。

ここまでお伝えしてきたように、古民家や古木には大きな価値があります。それは、地方にとって、潜在的な資産と言えるものです。それらを空き家のまま放置せず、有効活用することは、地方活性化に大いに役立つはずです。

また、国土交通省の定義によれば、1年以上誰も住まず、使われてもいない家は空き家とされています。逆に言えば、関係者が1年に1度以上訪れ、掃除やメンテナンスをしていれば、空き家にはならないということです。

こうした「潜在的空き家」は、定期的に人の手が入っているため、大規模な補修をすることなく、そのままの形で使える可能性が高い物件です。
また、取り壊したりせず維持しているということは、持ち主にとって貴重なものであるのでしょう。その分、家としての価値も高いと見込まれます。

このような、将来的に捨てられてしまう可能性がある物件こそ、磨いていくべき対象であり、実は宝の山だと私は考えています。

「もったいない」から生まれた循環型ビジネス

現在山翠舎では、古木の買取、施工、古民家のサブリース事業など、古民家・古木関連のビジネスをさまざまに展開していますが、そもそも、私が古民家や古木のビジネスを手がけ始めたのは2006年、父が率いていた山翠舎に入社してからしばらく経った頃でした。

大きな転機となったのは、長野の解体現場で衝撃的な風景を目にしたことです。古いが、いかにも歴史があって見事な古民家がなんのためらいもなく壊されていました。 

当時はSDGs という言葉はまだ使われていませんでした。サステナビリティ(Sustainability=持続可能性)という概念も、まだまだ一般的ではなかったように思います。ただ、古民家の解体に立ち会った私には、「素晴らしい古民家や古木に対し、こんなひどい扱いをしてもいいのだろうか……」という思いが深く刻まれました。

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