20万円で買った古民家に住む男「冬の寒さ」の現実 自給自足「水を引き、薪をくべ、暗くなったら眠る」

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愛犬ナツと猟場を歩く服部文祥さん
愛犬ナツと猟場を歩く筆者
会議に追われながら、電車に揺られながら、上司、同僚、部下の愚痴を聞きながら、ふと、このまま会社員生活を続けていていいのだろうか、と思うことはないだろうか。
登山家の服部文祥氏は、廃村の古民家で、できる限り、いまの日本社会のシステムから離れ、自給自足生活を送ろうという試みを、数年前から行っている。
ほぼ崩れかけた古民家を修理し、沢から水を引き、薪を集め、ソーラーで発電……実際のところ、どこまで自力でできるものなのか。
「20万円で買った古民家に住む男『自給自足』の現実」(12月17日配信)に続いて、新刊『お金に頼らず生きたい君へ』から一部抜粋、ある一日のすごし方を紹介する。

厳冬期の午前

厳冬の百之助(古民家の屋号)の一日を紹介しておこう。ここの厳冬とは12月の終わりから2月の中旬くらいである。

出猟する朝は、覚悟を決めて日の出前に寝袋を出る。毎日猟に出るわけではない。この村に滞在している狩猟期間の2割ほどである。猟に出たいナツ(犬)が夜明け前に起こしにくることもある。眠っている私の横に来て、きゅんきゅん鳴きながら前脚で私の顔を引っ掻くのだ。

獲物を探しに出かけない日は、窓の外が明るくなって部屋の中が見えるくらいになるまで、寝袋の中に入っている。

厳冬期の寝具は登山用の寝袋である。布団のほうが寝心地はいいが、布団の隙間から温度が逃げるうえに、布団が温まるまで時間がかかる。その点寝袋は温かい。

防寒着を着込んで寝袋に入ればより温かいが、私は着膨れして眠るのがあまり好きではない。毛の下着上下程度で寝たい。下着だけで寝袋に入ると寝袋の内側を冷たく感じるので、布団カバーを袋状のシーツのようにして、寝袋に入っている。そして足元には湯たんぽを入れる。

出猟する朝は、ストーブの火をおこしなおしたら、狩猟用の服を着て(冷たい)、魔法瓶に入れてあるお湯を飲んで、出発してしまう。チャイを飲んで朝食を食べていると、ずるずる遅くなるからだ。

出猟しない日は、外が明るくなる朝7時頃になっても、寝袋の中でぐずぐずしている。私に出猟する気がない日は、犬にもわかるようで、ナツも座布団の上で丸まっている。前の晩に火持ちのいい太い薪をストーブに入れておけば、オキ火になって残って、部屋はほんのり温かい。燃え尽きてしまうと部屋は冷えきってくる。

誰か薪ストーブをおこしなおしてくれないかなあと寝袋の中で考えるが、もちろんそんな人はいない。

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