20万円で買った古民家に住む男「冬の寒さ」の現実 自給自足「水を引き、薪をくべ、暗くなったら眠る」

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オキ火が残っていたらオキ火を、そうでなくても消し炭を集めてストーブの中で小山にする。その上に細めの焚き付けを載せ、さらにその上に薪を積む。牛乳パックを長方形に破って葉巻のように丸め、焚き付けの下に突っ込む。牛乳パックは蠟に似た油で防水のコーティングがされているので、火付きがいい。丸めてうまく内側に火を付けると、煙突効果で強い炎が出る。

チャイとチャパティ
チャイとチャパティ

白湯を飲んだら、ノートパソコンを立ち上げて、原稿を書きながらチャイを淹れる。キーボードは冷えきっていて、叩いているだけで、手がかじかんでくる。手を微妙に浮かして指先だけでキーボードを叩く(誤打刻が多い)。

原稿の締め切りはいつもある。単発のもの、月刊誌の連載、そして本の原稿の締め切りである(ありがたく、ときにうらめしい)。

チャイを飲みつつ、暖まり始めた部屋で、原稿を書く(キーボードを叩く)。ストーブ側の手は温かいが、逆側の手は冷えきっている。だが、朝飯前が一日の中でもっとも集中して原稿が書ける時間である。

昼が近くなってくると、だんだん集中力がなくなってきて、時計をちらちら見るようになる。できれば、午前中は原稿を書き続けたいが、ふと気がつくと、午後にやるべき肉体労働の優先順位を考えながらぼーっとしている。原稿のための調べ物がいつの間にか、大工仕事や家の構造や野菜の栽培などのネットサーフィンに変わっていることもある。なんとか、正午までと自分を叱咤して、マスを埋めるように原稿の続きをやり、正午になったら、薪ストーブに薪を入れなおして、チャパティを焼く。

午後の仕事

肉体労働に終わりはない。季節は巡るのでそれに応じた野良仕事はいつもあるし、薪を燃やすには薪を集めなくてはならない。掃除・洗濯、住処のメンテナンスも必要である。これらの作業はもはや、生命体としての自分の代謝の延長だ。

労働は大雑把に3つのカテゴリーに分類できる。ひとつは、家の改造などの大きな工事。これは材を揃え、時間を確保してやらなくてはならない。ふたつ目が季節系の労働。冬は樹の剪定、畑の土作り、狩猟(タンパク質の確保)もここに分類される。どれも冬のうちにやっておかなくてはならないことだが、急いでいるわけではなく、優先順位は中程度。そして優先順位がもっとも高いのが、生活に支障のある家や衣類の不具合の修繕と、ライフライン系の整備調達である(獲物があるときは解体)。

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