それでは、今回のバイデン外交は、今後のウクライナ情勢に具体的にどのような意味があるのだろうか。
最大の意義は、ロシアを戦場で負かすという総論で米欧とウクライナが明確に一致したことだ。これは、2014年にロシアによる一方的併合で奪われたクリミア半島と東部ドンバス地方(ドネツクとルガンスク両州)からロシア軍を追い出し、1991年の独立当時国際的に承認されたウクライナ国境線を回復するという意志を再確認したことを意味する。
この結果、アメリカのF16戦闘機や高性能な長距離ロケットATACMS(エイタクムス)など、ウクライナが今春に大規模反転攻勢を開始するうえで、アメリカに強く求めていた兵器供与にも道が開かれる可能性が高まったとみられる。
しかし、一方で総論では一致した米欧とウクライナの間では今後、すり合わせをしなくてはならない微妙な各論的議論がまだ残っているのも事実だ。
戦後のプーチン氏の処遇は
その代表的な課題は、①ロシア軍敗戦後のプーチン氏の処遇、②ロシア連邦のあり方、の2つだ。この2つの問題をめぐる各論の議論は春にも始まる予定だが、侵略された被害者であるウクライナと米欧の利害が異なっており、調整が難航する可能性も否定できない。
①をめぐっては、今回侵攻に失敗したとしても、歴史的ロシア帝国版図の復活を目指しているプーチン氏が政権の座にとどまることはウクライナにとって、ありえない選択肢だ。しかしバイデン政権が完全に同じ立場に立つという保証はない。
なぜなら、アメリカが最も恐れるロシア敗戦後のシナリオは、ロシア国内が混乱し、予測不可能な新たな独裁者が登場し、核のボタンを握る事態だ。そうした事態を招くくらいなら、暫定的にプーチン氏を政権の座に残し、次に登場する新政権に安全にボタンを移管させたほうがマシと考える可能性は否定できない。
さらにロシアが混乱することで結果的に、中国がロシア極東での権益を手にして、いっそう強大化する事態も懸念しているだろう。
またロシアの現在の連邦制を解体するか否かも大きな議論の対象になる可能性が高い。ウクライナは超中央集権的な今のロシアの連邦体制こそ、ウクライナを含めた周辺国への脅威と認識しており、ロシア連邦制の解体を主張するとみられる。
これに対し米欧は反対する可能性が高い。ロシアでも現在の与党政党だけでなく、反プーチン派リベラル勢力も解体に反対する可能性があり、議論が紛糾することもありえる。
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