プーチン氏としては、ウクライナの抗戦姿勢を切り崩し、米欧の支援疲れを引き出すためにも、侵攻を長期戦に持ち込む構えだ。しかしこのまま侵攻作戦が難航し、勝利の展望もなく長期化するようになれば、これまで表面化してこなかったプーチン批判が噴出し、ロシア政治の流動化が始まる事態も否定できない。
プーチン氏の年次報告演説の直後となる2023年2月21日に、訪問先のポーランドでアメリカのバイデン大統領が行った演説は、明言回避の守りの姿勢に終始したプーチン氏の演説とは対照的な攻めのスピーチだった。ウクライナ情勢に3つの点で大きなインパクトを与えた。
その1つは、アメリカがウクライナをロシアの侵攻から守るという固い決意を表明したことだ。前日の2月20日にアメリカ軍の護衛部隊がいないという安全上のリスクを取ってキーウ(キエフ)を電撃訪問したことと合わせ、侵攻開始以降、最も強力なウクライナ支援のメッセージを発信したといえる。
民主主義国家と専制国家の戦い
もう1つは、この侵攻がたんにウクライナとロシアの2国間の戦争ではなく、世界の民主主義国家と専制国家とのグローバルな戦争だと明確に描き出したことだ。「世界の民主主義国家は強くなり、世界の専制主義国家は弱くなった」との言葉がこれを象徴している。
実はウクライナ侵攻が持つこの側面はアメリカや日本を含め、各国内で必ずしも十分理解されているとはいえないのが実情だ。ウクライナとロシアという2国間の戦争であり、欧州の出来事にすぎないとの冷めた見方が一部世論にあるのはこのためだ。
バイデン大統領としては、ロシアの侵攻を失敗に追い込む歴史的意義の大きさを示すことにより、西側社会をいっそう団結させ、これをロシアのみならず中国にも誇示するという狙いがあったとみられる。
3つ目としてはアメリカの内政上の思惑だ。ウクライナ支援への消極論もある共和党をにらんで、ウクライナ防衛の歴史的意義を強調することで、支援継続論を議会で広げたいとの狙いがあったのは間違いないだろう。
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