日本の既存住宅「省エネ対策」が遅れる残念な事情 データスペースエコノミー時代のデータ戦略
HEMSによって電気使用量がわかれば、エアコンなどの家電製品の稼働状況を見て、無駄な電気は使わないようになる。それによる省エネ効果は、政府のエネルギー基本計画にも盛り込まれ、2018年に閣議決定した第5次計画では2030年までに住宅に100%HEMSを設置する目標を打ち出した。
2020年10月に菅義偉首相が国会の所信表明演説で温室効果ガス(GHG)の排出量を2050年までに実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を宣言。2030年の削減目標も2013年度比26%削減から46%削減に引き上げられ、2021年に第6次計画が策定された。この時にHEMSの設置目標は85%に引き下げたが、GHG削減目標の約2割を担う家庭部門でHEMS設置によって期待される削減効果は約13%と少なくない。
「近い将来に、HEMSにAI(人工知能)による自動制御機能が追加され、居住者がスイッチを入れたり切ったりしなくても最適な制御ができるようになる」(今泉氏)。消費者にとってもHEMSを導入するメリットが期待できるわけで、今後はHEMSの技術革新と普及を加速していく必要があるだろう。
情報家電機器が「つながらない」問題
HEMSがこれまで普及しなかった理由は簡単だ。現状ではメーカーや機種によってエアコンなどの情報家電機器がHEMSにつながらないからである。
一般家庭でインターネットを利用する場合、高速通信回線を引き通信装置のモデムやルーターを設置すれば、LANケーブルやWi-Fi無線でどのメーカーのどの種類のパソコンやスマートフォンでも簡単につながる。
HEMSを住宅に設置して、通信機能を搭載したエアコンなどの情報家電機器をつなごうとしても、つながる機器とつながらない機器がある。この問題については、1年前に掲載した記事『日本の住宅設備「デジタル化が進まない」根本原因』で詳しく解説した。
東京五輪の選手村を分譲・賃貸住宅団地として開発し、2024年から入居が始まる予定の「晴海フラッグ」では、5632戸すべてにHEMSを設置し、周辺の商業施設なども含めてエリア全体のエネルギー管理を効率化する。新設住宅であれば、最初からつながる機器同士を選んで設置すればよいが、既存住宅にはさまざまな機器が設置済みで、HEMSにつながらないからといってエアコンを新たに買い替えようとは誰も思わないだろう。
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