日本の既存住宅「省エネ対策」が遅れる残念な事情 データスペースエコノミー時代のデータ戦略

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さらにEUからは、日本政府に対してGAIA-X、Catena-Xへの参画が打診されている。GAIA-Xは、アマゾンやグーグルなどGAFAと呼ばれる巨大IT企業に対抗するのが狙いで、「IDSコネクター」と呼ばれる専用ソフトでデータ連携を実現する仕組み。日本として独自のデータ戦略を構築しないままに対応すれば、将来の「データスペースエコノミー」の世界で、GAFAだけでなくEUにも主導権を握られてしまう懸念がある。

デジタル庁と経済産業省では、日本のデータ戦略を構築するために2021年暮れから「デジタル・アーキテクチャ・デザインセンター(DADC)」内に、ドローンやロボット、スマートビルなどさまざまなプロジェクトを立ち上げている。2022年11月には「企業間取引将来ビジョン検討会」を立ち上げ、トヨタの山本氏やデンソーの加藤良文CTOなどがメンバーとなり、EUやアメリカの動向を見ながらデータ連携基盤構築に向けた議論を始めたところだ。

日本では遅れているデータ開示の仕組み

企業は、他社との競争を優位に進めるため、技術や営業に関する戦略的な情報は外部に出さないようにしてきた。しかし、地球環境問題や人権・貧困問題などが国際社会で重視されるなかでSDGs(持続可能な開発目標)に関係する情報は積極的な開示が求められている。

企業間取引将来ビジョン検討会では「協調領域」と「競争領域」を分けることでデータ連携を実現しようという議論が進められている。具体的にはGHG排出量の可視化や低減に寄与する領域においてデータ連携を進めていく方策などを検討していく考えだが、企業がデータをどのように開示するのかというルールづくりも必要になるだろう。

DADCでは、1月18日に東京大学大学院法学政治学研究科と共催で「デジタルアーキテクチャと法に関するシンポジウム」を開催し、データ活用に関する法整備について本格的に協議を進めることになった。シンポジウムでは「データ所有権」問題も話題になった。エアコンでも、自動車でも、その製品を購入した所有者に、現状ではデータ所有権は認められていない。データにアクセスできる者だけがデータを所有でき、それを開示する義務もない。

「EUでは、デジタル・マーケット・アクト(DMA:デジタル市場法)が2022年11月に発効した。こうした仕組みがあればデータ開示を求めることも可能になるが、日本ではまったく議論されていない」と、パネラーとして参加した福岡真之介弁護士はいう。

建築物の省エネ対策を検討してきた社会資本整備審議会の建築物エネルギー消費性能基準等小委員会の会合が1月25日に開催され、今後の省エネ対策として既存建築物についても「運用時のエネルギー消費の実績値等に基づく性能表示が必要」との意見が相次いだ。当面は非住宅を対象に検討を進めるが、新築住宅では省エネの性能表示制度が導入されるので、既存住宅でも流通活性化のためには同様の仕組みが必要だろう。

「エネルギー消費の実績値について、住宅の所有者を含めて(データの)開示に応じてくれるのか。そこがポイントになる」(国交省住宅局・今村敬参事官)

今後、住宅の省エネ対策を進めるうえでデータ活用が重要であることは間違いない。そうしたデータを企業間の競争を阻害しない形でどのようにアクセスできるようにするのか。同時に、それらのデータを活用して最適な省エネ改修を提案できる技術力のあるサービス事業者をどのように育成していくのか。既存住宅の省エネ対策を進めるうえでも重要な課題である。

千葉 利宏 ジャーナリスト

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ちば・としひろ / Toshihiro Chiba

1958年北海道札幌市生まれ。新聞社を経て2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議代表幹事。著書に『実家のたたみ方』(翔泳社)など。

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