愛知県の海辺にある古い住宅地に沢口久美子さん(仮名、39歳)の実家が建っている。久美子さんはこの家で生まれ育ち、両親と妹の4人家族で仲良く暮らしていた。しかし、27歳のときに母親が他界し、30歳を過ぎてから妹が先に嫁いだ。33歳のときに父親が亡くなり、久美子さんはひとりきりになった。
現在は、夫と息子と3人でこの家に住んでいる。2年前に結婚したとき、夫が「この家に住もう」と言ってくれたのだ。
早くに亡くなった、父と母の家を守りたい
「ずっとこの家に住んできたので、自分なりの生活リズムができていました。(結婚して夫がやって来るまでは)他人と一緒に住むことに抵抗がありましたね。一人の時間も好きなので、そんなに寂しくもありません。でも、夜遅くに帰って来て玄関のカギを開けるときは『物陰に誰か隠れていて襲われたらどうしよう』と不安はありました」
家族がいなくなった実家でのひとり暮らしは耐え難いほど孤独だろうと僕は想像していたが、久美子さんはやんわりと否定した。むしろ実家を空き家にしたり他人を迎え入れることに抵抗があったようだ。
ひとりの時間だけを楽しんでいたわけではない。30代前半までは仕事も遊びも「絶好調」だったと久美子さんは振り返る。
「名古屋に通って夜遊びもずいぶんしました。いろんな人と出会えるのが面白かったな」
和風美人でさっぱりした明るい性格の久美子さんは夜の街でも大いにモテたことだろう。父親が亡くなったときにも1歳年下の恋人がいた。
「合コンで出会った人でした。辛い時期を支えてもらったのですが、私が素直になれなくて1年後には自然消滅してしまったんです。彼が週末に友だちと飲みに行く、と連絡をくれても、『ふーん。私とは遊びたくないんだね』と思ってレスポンスをしなかったり。会いたいなら会いたいと伝えればよかったのに……」
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