この検診が注目されるのは「高校生世代初の大規模検診」だからだ。
小中学校の野球肘検診で見つかる「野球肘」は、肘の内側の「内側上顆障害(リトルリーグ肘)」と外側の「離断性骨軟骨炎(OCD)」および後方の「骨端線障害」だ。このうちリトルリーグ肘と骨端線障害は一定期間ノースローをするなり養生をすれば治癒するが、OCDは重症化すれば手術が必要になるし、手術をしても肘が曲がらなくなるなど深刻な障害が残る可能性がある。OCDは受検者の5%程度だが、いかに早い段階で見つけて適切な処置をするかが最大の課題だ。
しかし高校生になると、OCDはほとんど見つからなくなり、代わって「内側側副靱帯損傷」などプロ野球選手と同じ障害がみつかるようになる。
「大会前のメディカルチェック」との違い
今回の検診を担当した神戸大学大学院医学研究科整形外科学分野の美舩泰助教は、「野球肘検診」の意義を語る。
「今回の参加者は318人、うち病院への紹介は8人(2.5%)、内訳は内側側副靱帯4人、後方障害5人、OCD遺残2人(重複あり)です。それぞれ話をきくと皆一様に、痛みは感じていたが、投げることができるので続けている、ということでした。野球にかかわらず、軽微な痛みを我慢して競技を継続することは決して珍しいことではないと思います。しかし、我慢しながら続けることで悪化したり、手術を要する病態にまで進行する可能性もあるので、指導者による定期的なチェックや、痛みがあることを言いやすい環境は重要だと感じました。
今回のような検診があれば、日頃痛みを言い出しにくい環境・立場の選手や、自身の痛みに関心の低い選手の障害を検出することができると思います。また、今回は肘だけでなく、下肢、体幹、上肢と全身の診察を行い、そこでコンディション不良箇所を指摘し、各選手の状態に応じたコンディショニング、リハビリ指導を行ったので、個々へのアプローチもできたと思います」
高校野球ではこれまでも整形外科医や理学療法士によって肘、肩、腰の検診やチェックは行われてきた。しかし多くは「大会前のメディカルチェック」だった。医師は検診をして異状が見つかっても、よほどのことがない限り、ドクターストップをかけることはなかった。
ある甲子園ドクターは筆者に「選手たちは人生をかけて試合に出ている。少々故障する懸念があるからと言っても軽々しくストップはかけられない。大会期間中故障しなければそれでいい」と言い切った。端的に言えば高校野球の医療体制も「甲子園至上主義」に支配されていたと言うことになろう。
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