高校球児の「ケガ予防」に大規模検診が始まった訳 「甲子園至上主義」による支配からの脱却

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さらに美舩助教は少年野球と高校野球の「野球肘検診」の違いについてこう語った。

(写真:筆者撮影)

「少年野球検診の主目的はOCDの早期発見です。OCD初期は無症状ですので、手術を要さない初期の段階でOCDを発見するには検診がどうしても必要です。われわれは検診時にリハビリやリズム体操、投球計測など色々と行っていますが、最低限であればエコーによるOCD検診だけでもいいくらいです。

一方で、高校生の検診の目的は、全身のメディカルチェックです。意義としては社会人やプロ野球チームが入団時やシーズンオフに行うメディカルチェックと同じです。まず医師による診察で、全身状態のチェックを行います。次にエコーによる肘関節のチェック。そこで指摘されたコンディション不良個所や、異常所見箇所を基に、理学療法士が各選手に必要なコンディショニング、リハビリ方法を指導します。その中で、病院での検査が必要と思われる選手は紹介状を渡します。このように、全身を通してチェックを行わないと、障害の原因が見えてきませんので、小学生のようにエコーだけでは検診としては不十分です」

さらにこう解説する。

「小学生と異なり、OCDが発見されても遺残(OCDはあったが、発見されず、悪化もせず、運よくそのまま競技を続けられた選手、または保存加療である程度回復し、少し所見が残っているなど)で、大きな問題となる選手はいませんでした。年齢的にもOCDが発症する時期ではなく、骨成長が完成しつつある時期で、肘頭症状(疲労骨折や骨棘障害)や内側側副靭帯の症状が多かったです。

内側側副靭帯損傷では、小学生時代に内上顆の剥離や骨不整が起こっていたであろう選手に症状があることが多く、やはり内側側副靭帯付着部が正常ではないので、障害を発生しやすい傾向はありますが、内上顆の異常が必ず内側側副靭帯の痛みにつながるわけではありませんので、そこは投球指導やコンディショニングでカバーできることも多いと思います。そのため、個々の選手に対するリハビリ指導ができたことは良かったと思います。

今回は初の試みで、1校2人までと人数もかなり制限しましたが、理想的には全1年生投手の検診ができればと思っています。高野連からは来年以降も続けたいとの希望も伺っていますので、少しずつ検診できる人数を増やしていく予定です」

高校野球を「安全で将来に禍根を残さないスポーツ」に

谷中康夫氏(写真:筆者撮影)

今回の兵庫県高野連野球肘検診は、「兵庫野球肘検診」の主催者で、毎年1000人近くの小中学生の検診を実施してきた特定非営利活動法人兵庫野球指導者会の谷中康夫代表が共催者になったことで実現した。

谷中氏の取り組みは、以前このコラムで紹介したが、小中学校で大規模な検診を実施しても、その子供たちが高校へ上がってからまともな検診が受けられないことに、不安を感じていたという。

会場には日本高野連の関係者も視察に訪れていた。経済的な問題もあって、野球肘検診は、全国ですぐに実現するものではないが、高校野球を「安全で将来に禍根を残さないスポーツ」として存続させるためにも、全国レベルで導入を検討すべき時期に来ていると言えよう。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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