東急本店閉店の水面下でうごめく「外商」争奪戦 コロナ禍を機に電鉄系百貨店の「撤退」加速へ

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「東急本店はいま、周辺にある競合百貨店の間で外商顧客の草刈り場になっている。うちも体制を強化して顧客獲得を狙っている」。都内の百貨店幹部はそう息巻く。

集客に苦戦してきた東急百貨店本店だが、上顧客に特別なサービスを提供する「外商」の顧客基盤の厚さには定評があった。本店のすぐ西側には都内有数の高級住宅街である松濤(しょうとう)地区が広がっている。同地区や東急沿線に居住する富裕層顧客を背景に、本店では売上高全体の4割程度を外商が占めていた。

東京や大阪など大都市部にある百貨店の店舗でも外商比率は1~2割が一般的で、東急本店が抱える外商の顧客基盤は競合他社にとって魅力的だ。

渋谷には西武があるほか、近隣の新宿には伊勢丹や高島屋など、銀座には三越や松屋が出店しており、渋谷から距離が近ければ顧客も他社に乗り換えやすい。

外商顧客争奪へ競合各社は体制強化

前述の百貨店幹部は「富裕層の中には、複数の百貨店の外商を掛け持ちする顧客も多い。東急本店の外商も使っていたお客様に、うちの外商を利用する頻度を高めてもらえるよう営業をかけている」と語る。

また、一部の百貨店では東急本店で働く外商担当者をスカウトして中途採用する動きも本格化させているという。というのも、外商担当員は時間をかけて顧客との信頼関係を築いており、担当者が他社に移籍すれば顧客も移ってくることが想定できるためだ。

奪われる側の東急百貨店だが、閉店するとはいえ、外商顧客をつなぎ留めようと躍起になっている。

本店の閉店を受け、東急百貨店では渋谷駅前にある東急グループの商業施設「渋谷ヒカリエShinQs(シンクス)」内に、外商顧客専用の「お得意様サロン」を2023年春に新設する予定だ。

東急百貨店本店の跡地に建設される複合ビルのイメージ図
東急百貨店本店の跡地に建設される複合ビルのイメージ図。商業施設やホテル、マンションなどが入居する予定だ(Image by Mir / Copyright : Snøhetta 提供:東急株式会社)

東急百貨店本店の稲葉店長は「お客様からは『私たちは今後どうなるのか』という声を聞いているが、東急グループ全体での連携によってモノ以外のサービスも提供するなどして、お客様とつながっていきたい」と話す。

ただ、外商でも百貨店売り場にある商品を基に提案するのが基本であるため、売り場を失った百貨店が顧客との関係性をどこまで維持できるかは疑問符が付く。

セブン&アイ・ホールディングスが売却交渉を進めるそごう・西武では、西武池袋本店などに家電量販大手のヨドバシホールディングスが入居する案が検討されており、それが実現した場合には従来の外商顧客が離反していく可能性も指摘されている。

呉服屋系百貨店が千載一遇の好機とみて攻勢を強める中、小田急百貨店や京王百貨店も含めて、外商顧客の争奪戦の行方いかんによっては、都内の百貨店勢力図に大きな影響を与えそうだ。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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