実際に検査を受けた人からは、「まったく問題がなかった」「想像よりも楽だった」という声がある一方、「痛かった」「もうあんなつらい検査は受けたくない」という人もいる。本当のところはどうなのだろうか。
白倉さんは、「大腸内視鏡はある程度の技術が必要ですが、今は腕のいい医師が増えています。また、機器の進歩によって大腸内視鏡がスムーズに挿入できるようになったことなどから、苦痛を感じることは少ないと思います」としたうえで、「技術を伴わない医師が検査を行った場合、痛みや苦痛を感じさせてしまうことがある。できるだけ楽に、かつ、がんなどの見逃しのない精度の高い検査を受けるためには、経験豊富な医師のいる医療機関を選ぶことが大事」とアドバイスする。
大腸は約1.6mの長い管。曲がりくねっているうえに、細いところと太いところ、ねじれているところがある。ここに肛門から長さ約1.4m、直径11~13mmの内視鏡を入れ、直腸、S状結腸、下行結腸、横行結腸、上行結腸を通り、大腸の一番奥、小腸の出口付近の盲腸まで到達させる。
「一番の難所は内視鏡を入れてすぐのところ。S状結腸と下行結腸の急カーブです。下行結腸を英語で『descending colon』と呼ぶことから、私たちはここを『SDジャンクション』と呼んでいます。このカーブをいかにスムーズに通過させるかが腕の見せ所。もたもたしていると、患者さんに苦痛を与えてしまいます」
手術を受けた人はつらいことも
腸の形は個人差が大きい。とくに苦痛を感じやすいのは、SDジャンクションをはじめとした、腸のカーブが急な人だ。生まれつきの形だけでなく、帝王切開をした人、子宮筋腫などでお腹の手術をした人はきついことが多い。腹部の手術をすると臓器が周辺の組織と癒着(ゆちゃく)しやすく、大腸も曲がったまま、動きにくくなってしまうことが多いからだ。
癒着とは反対に、大腸が動きやすい人も内視鏡の挿入が難しいという。
「肥満の人に多いですね。脂肪に囲まれた大腸は、水の中に浮いているようにゆらゆらとして不安定なのです。この動きに合わせて大腸内視鏡を挿入してあげないと、患者さんは苦痛を感じてしまいます」
大腸内視鏡を入れてから、終了するまでの時間は人にもよるが、10分程度(下剤を服用して腸に残った便を出す前処置を含めると、医療機関に滞在する時間は2~3時間)。
最近では患者の不安と苦痛をやわらげるために、鎮痛薬や鎮静薬を使う医療機関が多い。こうした薬を使うと、うとうとした半覚醒の状態で楽に検査を受けられる一方、検査後は薬が切れるまで30分前後、ベッドで横になっていなければならず、すぐには帰れない。このため、鎮痛薬や鎮静薬を希望するのであれば、時間的に余裕のある状態で検査を受けるようにしたい。
白倉さんは、大腸内視鏡の技術がある医師の目安として、「大腸内視鏡の検査数、3000件」を挙げる。
「これは当院で大腸内視鏡のラーニングカーブ(学習曲線)を調べた結果から得た数字です。患者の腸に特別な問題がなければ、入り口から盲腸までの到達時間は約3分が目安ですが、ここに到達するまでに3000件の検査数が必要でした」
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