NHK「虚偽字幕」はただのチェック不足ではない 「政治への忖度」に慣れきった危うい空気
40代のディレクターは、NHK史に刻まれることになった2つの事件を俯瞰して、次のように語る。
「ETV2001番組改編問題のあと、どうすれば政府から独立し、政権に対して批判的な眼を持ち続けられるか、有志たちが集まって勉強会を重ねてきた。でも、結局は世の中の大きな流れに呑まれてしまった感がある」
「安倍政権時代には迎合するような忖度報道が目立ち、菅政権時代には五輪に批判的な番組がほとんど放送されなかった。そんな中で起きたのがあの字幕問題。この20年で『政治への忖度』に慣れきったNHKの姿をさらしてしまった」
組織防衛に主眼が置かれる
ETV2001番組改編問題と五輪反対デモ字幕問題には、どちらも政治への忖度が背後にある一方で、決定的な違いがある。
前者が、政治家の口出しを受けて番組を改編させられた事件であったのに対し、後者には政治家による介入といえる事実が存在しない。NHK全体が政権の意向を忖度する空気の中、現場のスタッフ自ら五輪に舵を切った政権を後押しするような番組を作ったというのが実態だ。
ETV2001番組改編問題では渦中の人となり、五輪反対デモ字幕問題では綿密な取材をしてきた長井暁氏はこう語る。
「問題の本質は『チェック機能が働かなかった』というレベルの話ではない。市民運動を侮蔑するような態度をとってきたNHK執行部の姿勢が職員たちの感覚を麻痺させてしまっている。ETV2001番組改編問題以降、政権への忖度に慣れきったNHKの、ジャーナリズムの力そのものが弱っているところに(字幕問題の)真の原因がある」
NHKには、職員が過去の番組を探して視聴できる検索システムがある。だが、「河瀬直美が見つめた東京五輪」は、現在、検索しても出てこない。問題とされた番組を職員が検証しようにもできなくなっている。
そしてNHKが再発防止策として実施した「研修」は、視聴者や市民への理解促進ではなく、いかにしてNHKという組織をリスクから守るかという点に主眼が置かれた。ETV番組改編事件から20年が経過した、NHKの現在地である。
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