NHK「虚偽字幕」はただのチェック不足ではない 「政治への忖度」に慣れきった危うい空気

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問題となったのは番組の後半、「五輪反対デモに参加しているという男性」が登場し、「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕がついた。NHKの番組は、島田監督の背中越しに男性を撮影しており、当該シーンは島田監督の取材に同行する形で撮影された場面だった。

NHKの内部資料。字幕問題を受けて実施された研修の案内(記者撮影)

放送後、ネット上では五輪反対デモを行う人々に対して「お金で動員された矜恃も何もない集団」「民意をゆがめようという工作」といった誹謗中傷のコメントが飛び交った。

しかし2022年1月9日、NHKは同番組について「字幕の一部に不確かな内容がありました」と発表。登場した男性が五輪反対デモに参加したと確認が取れていなかったことを明らかにした。

10日後の1月19日、NHKは記者会見で制作過程について釈明に追われた。その内容によると、制作当時、チーフプロデューサーはディレクターに、男性が本当に五輪反対デモに参加していたのかについて確認するよう指示。ディレクターは「一緒に話を聞いた島田監督に『デモに行く予定がある』という話を聞いたことを確認した」とチーフプロデュ-サーに返答していた。

ひっくり返ったNHKの説明

だが、NHK釈明会見の翌日、島田監督が「担当ディレクターからの事前確認はありませんでした」という声明を出し、NHKに抗議したことを明らかにした。これを受けたNHKは「字幕の内容について島田さんに確認したという事実はありませんでした」と先の釈明を撤回してしまう。

問題が表面化した2022年1月、前田晃伸会長(当時)は字幕問題について「率直に言って非常にお粗末だった」「チェック機能が十分に働かなかったことが一番大きな問題」だと述べている。

「お金をもらって五輪反対デモに参加した」とされる男性が、本当に五輪反対デモに参加したのか、番組では曖昧な形で描かれている。NHK関係者によると、問題が発覚した当時、担当ディレクターはこの男性の連絡先すら把握していなかったという。

その意味で前田会長の「非常にお粗末」という評価は間違っていない。NHKは番組を手がけたディレクター(30代)とチーフプロデューサー(40代)に停職1カ月、専任部長(50代)に出勤停止14日という厳しい処分を下した。

だが、「お粗末」な番組が放送されるに至ってしまった真因を「チェック機能が十分に働かなかったこと」だけで説明できるのか。

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