NHK「虚偽字幕」はただのチェック不足ではない 「政治への忖度」に慣れきった危うい空気
見え隠れするのは政治への忖度だ。コロナ禍での東京五輪について、NHKの世論調査でも一時は国民の半数以上が中止や延期を求めていた。ところが、五輪の盛り上がりを政権浮揚につなげたい菅義偉首相(当時)は開催に踏み切る。元総務大臣の菅首相は「NHK改革」を叫ぶなど自民党内でもNHKににらみを利かせてきた政治家として知られる。
菅首相が五輪開催に舵を切ると、NHKは五輪に関する世論調査の質問や選択肢を変更し、開催を前提とした調査方法へと切り替えていく。
五輪に批判的な企画は上がらなくなった
ドキュメンタリー番組などを制作してきたNHKのベテランディレクターは「チェック機能うんぬんというのは表層的な話。もっと深いところに真の原因がある」として、「字幕問題を生んだ空気」に言及する。
「NHKの中にも東京五輪に批判的な意見を持つ人は決して少なくない。誘致にかかったカネの中身を検証する企画や、五輪の商業主義を批判する企画を練っていたディレクター、記者は少なからずいた」
しかし、菅政権が五輪開催に舵を切ると「NHK内で五輪を盛り上げる番組制作に駆り出される職員が増えた」と言う。
「五輪を批判する企画をやることは自分たちの仲間を批判するような格好となり、五輪に批判的な企画はしだいに上がらなくなった。そんな空気の中で、ついに五輪反対デモを誹謗中傷するような番組が作られ、放送されてしまった」
同ディレクターはこう続ける。
「20年前のETV2001番組改編問題が起きたとき、二度と同じ過ちを繰り返さないよう、NHKのあるべき姿をしっかりと固めておくべきだった」
20年前のETVとは、2001年1月30日に放送されたETV2001「問われる戦時性暴力」(シリーズ「戦争をどう裁くか」第2回)。
戦時中の戦時性暴力問題を扱ったこの番組は、放送前、安倍晋三官房副長官(当時)ら自民党政治家が番組内容に口出しをしたことを受け、政治家対応を専門とする野島直樹総合企画室担当局長(当時)を中心にNHK幹部が現場に内容修正を指示。結果、放送前に番組内容が改編された。