しかし、窪塚さんが学生の頃からの「理学療法士の道が自分のやりたいことなのか」「この先もずっとこの仕事を続けられるか」という違和感は、結果的に払拭されることはなかった。“とりあえず3年”が折り返しに入った頃には退職する決意を固めたという。
「当たり前と言えば当たり前の話ですけど、目の前の患者さんに対応するには高度な知識や技術が求められるし、厳しい世界で甘くない仕事なんですよね。誰に対しても一応はちゃんと働いたと言えるように、“とりあえず3年”と大学4年の段階で決めて働き始めて、実際に無我夢中で働いてきましたが、僕にはこれ以上、この仕事に注ぐエネルギーはないと痛感しました」
自己研鑽が求められ続ける業界の事情も
「職場には理学療法の世界でもけっこう有名な人がいて、就活では純粋に尊敬もしているので今の職場を選んだ面もあるんですが、一緒に働いていると余計に自分の熱意はないなと感じます。このまま働き続けてもモヤモヤを抱えて中途半端な気持ちで仕事に取り組んでしまう気がしますね」
プロフェッショナルの働きぶりをみて、自分はそこまで一流に徹し切れない(あるいは、それほど徹したくもない)と思った経験は、何かを志したことのある人なら誰しも一度や二度するものかもしれない。
他人の健康を預かる仕事の性質上、一般企業とはまた違う大変さもある。理学療法士の質の高い仕事は個人のやる気や責任感に寄るところも大きいらしく、“食うための仕事”として割り切って働き続ける選択肢も窪塚さんは持てないそうだ。
「いろんな職種・業界で言われがちなことだとは思いますが、理学療法士の仕事は専門性の高い業務のわりに給料が見合わないと一般的に言われていて。私は入職した時期がコロナ禍だったのでオンライン研修も多かったんですが、本来は現地で教わって技術を習得する必要があり、自己研鑽として自分で実費や時間を捻出して研修を受けないといけないんです。僕は参加していませんが、中には東京で数日間滞在するような研修会もあり、参加した人を見ていると結構な負担になっていそうです」
加えて、景気に左右されない医療職の安定感も高校時代に理学療法士を志した理由の1つとして挙げていたが、実際はそこまで楽観的に安泰とは言い切れない現実もあると語る。
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