台湾で「日本産小麦のパン人気」裏に潜む大問題 「日本産というと売れる」という声の一方で・・・
昨年11月中旬、台湾鉄道台中駅そばのホテルの宴会場で台湾産雑穀メーカー「十八麦」による記者会見が開かれた。開発した9種の商品が披露された会見に登壇した行政院農業委員会農糧署(行政院農業委員会は、台湾の農業・林業・漁業・牧畜業など、食糧全般の行政を担う政府機関)の胡忠一署長によると、「現在、台湾全土で作られる小麦は2240トンです。このうち全体の80.5%を生産するのが金門島で、以下、台南、台中、彰化となっています。ですが、台湾で必要となる量の0.5%にすぎません」 という。
つまり他国からの輸入に頼らないと、台湾国内で必要となる小麦の量を確保できないのだ。
改めて農業委員会が出している2021年のフードバランスシート(食料需給表)を確認すると、国内生産量は900トン、国外からの輸入量は152万3700トンとなっていた。それゆえ台湾産の小麦の原価が高くなり、ベーカリーなど小麦を買い求めるお店側も手が出しにくくなっている。
そこで武さんの店では、日本産の小麦粉も使っている。日本産の小麦を使用しているのは価格の問題だけではない。実は台湾のベーカリーでは、値札に原料名として「日本産小麦」と明記されているのみならず、店内に、小麦粉の空袋がオブジェとして置かれたり、台湾の雑貨ブランドでは、袋を加工してショッピングバッグへと生まれ変わらせたり、と人気の裾野は広い。
「日本産というと売上が上がる」
では一体、いつから日本産小麦粉のブームが始まったのだろう。武さんは言う。
「ああ、それなら野上さんの台湾進出でしょうね」
2008年にオープンしたベーカリー「野上麵包坊Nogami Boulangerie」が小麦粉を日本から仕入れるようになり、日本から台湾への小麦粉の流通ルートができた。それが台湾の人たちの間で高い評価を得て、しだいに広がっていったのだという。
武さんに日本産小麦が好評な理由を尋ねると「私もよくわからないのですが、日本産と言うと売り上げが上がるのは確かです」と笑った。
日本産小麦の人気の一方で、台湾産の小麦にこだわるメーカーもある。
台湾南部・屏東にある「長安製麺」では、台湾に昔から伝わる天日干しの麺を作り続けている。天日干しの麺は、工場で人工的に乾燥させる麺とは異なり、茹で過ぎても麺の食感を保つという。
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