「アメとムチ」なしで人を動かす行動経済学的方法 パイロットに数百万ドル節減させた画期的事例

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

このフィールド実験は、社会的に恥をかく要素はなかった(罰のような要素は、まったくなかった)。どのレポートでも、燃費データを公表するとか、結果が年俸や業績評価に影響するかもしれない、などと脅すことはしなかった。

ただ、この実験設計は、パイロットの年俸や業績評価を左右するわけではないものの、ヴァージン航空が炭素排出量の削減という「規範」の確立を目指していることを暗黙のうちに知らせていた。パイロットは、自身の選択が直接マイナス評価を受けることがなくても、選択の結果としての燃費データを幹部やわれわれエコノミストに見られることは認識していた。

言い換えれば、パイロットが選択する行動の影響は、社会的な組織の仕組みのなかで結局は本人自身に返ってくる。そのため、新たな規範に従わなければ、面目を失う可能性があった。

人間の脳に備わる「微細な調整機能」

調査の結果判明したのは、パイロットが燃費を向上させる行動をとるインセンティブになったのは、同僚の手前バツが悪いという恐れではなく、自分自身が炭素排出量の削減という社会の期待(あるいは会社全体の規範)に応える人間でありたいという願望だった。

このナッジを、335人のパイロット、4万便あまりのフライト、10万強のパイロットの判断に広く適用することができるだろうか。人間の脳には、こうありたいという自己のイメージを実現するための微細な調整機能が備わっていることから、このナッジは広く適用できるはずだ、とわれわれは前向きに考えた。

次ページ見られていることを意識するだけで変化できる
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事