日本人は国債の投機で誰が損するかわかってない 海外ファンドが得る利益を負担するのは日本国民

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一方で購入し他方で貸し出すというのは、何とも奇妙なことだ。

こうした奇妙なことを行っても、なおかつ国債の売り圧力を吸収できないほど、国債の価格下落の見通し(金利上昇の見通し)が高まっているのだ。

日銀保有国債の価値は低下

近い将来において国債の価格が下落する(金利が上昇する)と、どうなるか?

国債のショートポジションを取っていたヘッジファンドは、目論見どおり、巨額の利益を得る。

昨年12月の長期金利上限引き上げで、実際に長期金利が上昇した。そして、ヘッジファンドは巨額の利益を得たと考えられる。

他方で、日銀が購入した国債は値下がりする。それがヘッジファンドの利益になっているのだ。

ただし、日銀が被った損失は、日銀の決算には現れない。なぜなら、日銀は保有国債を基本的には額面で計上しており、市場価格が下がっても影響は受けないからだ(日銀は、2004年から「償却減価法」という方式を採用している。これは、債券を額面より低い価額で取得した場合、その差額を満期までの残存期間で按分して毎期計上する方式だ)。

日銀は、民間の銀行に対しては、財務健全化の見地から、国債を時価評価するよう求めている。それにもかかわらず、自分自身ではそれを行っていない。これは奇妙なことだ。

日銀のバランスシートにおいて、負債にある日銀券と日銀当座預金の価値を担保するものとして、資産に国債がある。国債の価値が下がるのだから、日銀券と当座預金の価値も下がるはずだ。

しかし、現実の経理では、そのような事態は記述されないのである。だから、海外のファンドは利益を得るが、それを誰がどのような形で負担しているのかが、わからない形になってしまっている。

ヘッジファンドが得る利益は、天から降ってくるものではない。それは、日銀が負担するものであり、究極的には、日本国民が負担するものなのだ。

このような事態は、日本国民として許容できるだろうか?

金融の投機は複雑なので、そのメカニズムを理解するのは容易ではない。そのために、問題があっても、無視されてしまう危険がある。

この問題は、決して無視してはならないものであることを指摘したい。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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