本当に凄い?エクセレント・カンパニーの虚実 優良企業でなく優良事業の戦略こそ注目すべき

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高収益を目指すべき社会的な理由とは

5点目は高収益を目指すべき社会的な理由である。

資本主義は他用途に転用可能なヒト、カネ、土地、鉱物、化石燃料などを市場で配分する。すなわち、他社より高い価格を受容しても利益を出せる企業に資源を優先配分して、社業の拡張を許容する。

有効に資源を使って実績を上げた企業に、新たな資源の使途を託す選択が、恣意的な配分の横行する共産主義より格段に優れていることは、前世紀の社会実験が決定的に証明したとおりである。

高収益は、資本主義の下で資源の配分にあずかって、成長を許される企業の証しであり、それを目指すのは当然と言ってよい。

公平は、個人の富を再分配して達成するもので、基本的には相続税の使命である。配分と分配を混同しては、議論が前に進まない。

番外になるが、利益率は高ければ高いほどよいのかと問われたら、私はノーと答えたい。

売上高営業利益率は最低10%を超えるところまで持って行きたいが、20%を超えてしまえば企業は存続、成長を文句なしに許される。その意味において利益率は制約条件と捉えるべきであろう。

制約条件を満たすまで利益率は目標視すべきであるが、そこから先は実現したい世の中のイメージを目的に据える企業のほうが、むしろ社会は共感を覚え、社員も奮い立つ。

この理解を踏まえたうえでの「高収益」であることを、あらかじめ断っておきたい。

252のケース分析から見えてきたもの

成功ケースを丹念に分析しても、出てくるのは成功の必要条件だけである。

条件を満たさないと成功は望めないが、条件を満たしても成功は保証されない。下手をすると、条件を満たすケースの大半は手ひどい失敗に終わっていることもありうる。

そこに芽生える不安を打ち消すには、母集団と分析対象期間を固定したうえで失敗ケースを見にいくしか道はない。

戦略が裏目に出ると、投資した設備、増員した人員、積み増した在庫が不要になり、その会計処理は営業利益段階を素通りして営業外損失や特別損失に回ってくる。そこに注目すると、失敗ケースを選出できる。

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戦略が概念として意味を持つとしたら、その理由は普遍性に求めるべきであろう。成功ケースが個別の勝因を持つようなら、それは単なる「工夫」にすぎない。

勝因が「戦略」の名に値するのは、それを共有するケースが複数あって、他社への適用可能性が見えるからである。

それゆえ、本書では複数の成功ケースにまたがるパターンを探しにいく。

本書では151の成功ケースを吟味して複数例に共通するパターンを括りだし、101の失敗ケースから反例の有無を探ってみた。

その結果、14の戦略パターン、そして30の戦略バリエーションを浮き彫りにすることができた。

高収益という山の頂に登る道が何本もあることが明瞭になったわけで、これだけの多様性があれば、所属する業界や置かれた立場にかかわらず誰しも何かしらヒントを見つけることができるのではないかと思う。

三品 和広 神戸大学大学院教授

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みしな かずひろ / Kazuhiro Mishina

1959年生まれ、愛知県出身。一橋大学商学部卒業。同大学大学院商学研究科修士課程修了。米ハーバード大学文理大学院博士課程修了。同大学ビジネススクール助教授、北陸先端科学技術大学院大学助教授などを経て現職。著書多数。経営幹部候補生のために、日本企業のケース464事例を収録した『経営戦略の実戦』シリーズ(全3巻)が2022年5月に完成した。近著に『実戦のための経営戦略論』

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