「勝てない競走馬」はどうなるのか 日本一の調教師・角居師の「もう一つの挑戦」
JRAで言えば、原則3歳の秋までに1勝できなければ、競走馬は、地方競馬など別組織で活躍するなどのわずかな可能性を除くと、乗馬クラブなどに売却されていく。そこまでの流通経路は確実である。だが、日本の乗馬クラブの人口は正会員ベースでは10万人未満といわれる。一見のビジターも30万人ほどで、役割を終えた競走馬の「第2の人生」の職場としては、現状はあまりに小さすぎるのだ。
だが、なんとかしようという志はあっても「ろくに自分のところで勝てる馬もおらず、競馬で実績を挙げないヤツの話なんか、聞いてくれるわけもないから」(同)。
菊花賞を「デルタブルース」で制し、初のクラシックタイトルを手にしたのは2004年。以来、自らの努力と優秀なスタッフにも恵まれ、角居師のホースマンとしての経歴は今や押しも押されぬものになった。その一方で、どんな形で「引退競走馬」転用のプロジェクトを実行に移すのがよいのかを、常に考えてきた。
夢を形に、全国組織「ホースコミュニティ」を立ち上げ
そんな角居師が、あるイベントからヒントを得たのが約9年前だ。障害者が手綱を握って馬を操る姿を見て、「ホースセラピー」という療法があることを肌身で知り、普及に乗り出した。また、2011年からは、地方の競馬場などと組んで、馬に感謝するイベント「サンクスホースデイズ」も毎年実施しはじめた。
こうした試みを続けながら、競馬界やそれ以外の関係者などに賛同者を募り、2013年12月に設立したのが「ホースコミュニティ」(滋賀県栗東市)だ。
「全国的な馬と人のネットワーク構築」の必要性を感じた角居師が、ホースセラピーなどの普及啓発に加え、セラピーホースになるための訓練支援、さらには訓練を行うインストラクターの育成などを主な目的に設立した一般財団法人である。引退競走馬などの「第2の人生」の舞台を用意しながら、「馬を介して多くの人が幸せになるための社会づくり」(同)が目指す方向だ。
それゆえ、事業内容には馬糞堆肥の活用や、馬に関わる就労支援なども含まれる。理事や評議委員には馬を介したセラピーに詳しい局博一東大名誉教授や、「メイショウ」の馬主としても知られ、早くから角居師の活動に賛同してきた松本好雄氏、ジョッキーの福永祐一氏なども名を連ねる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら