「勝てない競走馬」はどうなるのか 日本一の調教師・角居師の「もう一つの挑戦」

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今年2月には「ホースコミュニティ」のポータルサイトである「ホースセラピーねっと」も開設。前出の普及啓蒙活動だけでなく、引退競走馬の流通管理、さらにはホースセラピーがうけられる牧場情報などを、積極的に発信して行こうというサイトだ。

栗東トレセン内にある角居厩舎の看板。個々のスタッフの自主性を重んじながら結果を出す「チーム角居」。競馬界の評価は高い(撮影:ヒラオカスタジオ)

「ホースコミュニティ」の具体的な事業は試行錯誤の中で始まったばかりだ。夢を実現していくには「競馬」「乗馬」「障害馬」「養老馬」など、それぞれに携わっている関係者間での「横の連携」が必要になる。

だが現在のところ、交流は前出の「サンクスホースデイズ」のイベントなどを通して、始まったばかりだ。馬を扱っていながら、近そうで目的が違うため、これまではなかなか交流が進まなかったのだ。

また、馬と人が動けば、カネもかかる。例えばセラピー事業で言えば、1人の障害者が馬に乗ってリハビリを受けるには、馬を引くリーダーを含め4人の介添えが必要。だが、こうしたすべての行為におカネを支払うことは不可能で、ボランティアの協力などが不可欠だ。

「ホースコミュニティ」では、まずはできるところから手掛ける。2015年度からは、競走馬の鍛錬をする場として有名な「栗東トレーニングセンター」近くの乗馬クラブと提携。そのうえで「試験的に、競争登録を抹消した引退競走馬を2頭程度引き受け、その馬たちが乗馬に転用できるまでの過程や、その方法についての講習会を開催していく」(山本高之事務局長)。

「まずは引退競走馬を引き受けるところから」。山本事務局長も、「チーム角居」の一員として夢を共有する(撮影:ヒラオカスタジオ)

一方、実際にホースセラピーが行われている「現場見学会」や、ホースセラピー活動団体の座談会、さらには、医療系の有資格者勉強会等を開催していく予定だ。

「ホースコミュニティ」では、こうした「引退競走馬→乗用馬」という転用事業が軌道に乗ってくれば、「将来はチャリティー会員を募集したり、有料のファン会員組織を作って、牧場で乗馬ができたり、ホースセラピーを受けられたり、といった(便益を共有し合う)『シェアリングクラブ』の運用にこぎつけたい」(山本事務局長)。

馬に生かされていると感じ、馬をこよなく愛する角居師と賛同者が始めた取り組みは、今少しずつ実を結ぼうとしている。

福井 純 東洋経済 記者

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ふくい じゅん / Jun Fukui

「会社四季報オンライン」編集部長。『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報プロ500』『株式ウイークリー』『オール投資』編集長、「東洋経済オンライン」編集部長、証券部長を経て現職。国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)、日本テクニカルアナリスト協会理事

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