それでも「完璧な理論武装」によって、「評価する人」を「論破」できたとします。「論破」された相手は「自分にはなかった視点だ。部下ながら、いいことを教えてくれた」などと、感心してくれるでしょうか。
もちろん、そう感謝してくれる「立派な上司」もいるでしょう。ですが、圧倒的多数の「評価する人」は異なる感情を抱くはずです。それは「自分は言い負かされた」という、敗北感です。
幕末の志士・坂本龍馬は「俺は議論はしない。議論に勝っても人の生き方は変えられぬ」と語っていたそうです。もし議論に勝ったとしても、相手の名誉を奪うだけ。人間は議論に負けても自分の所論や生き方は変えないものだし、負けたあとに抱く感情は恨みだけだからだそうです。
「正論」で相手を言い負かすことは、その場はすっきりとして気分がいいかもしれません。ですが、得になることは何もないのです。
伝え下手の特徴③ 判断を下すのに時間がかかる
就職・転職の際の面接、社内プレゼン、大きな商談など、人生には数々の勝負どころがあります。こうした勝負どころの「本番」に弱いことも、「伝え下手」な人に共通する特徴です。「本番」では、思っていることの半分も表現できないのです。
私自身も実は、極端に「本番」に弱い人間です。
入試のときも「本命」の受験時は緊張のあまり、何を書いたのかもよく覚えていません。試験の終了間際に慌ててしまい、消しゴムで答案用紙を破ってしまったこともあります。ところがプレッシャーのかからない「第2志望」の学校になると、驚くほど冷静になれるのです。
就職活動でも同じでした。第1志望の会社に、最初は「素の自分」で勝負しようとしました。ところが、いざ面接となると、少し難しい質問をされるだけで頭が真っ白に。何も言えなくなってしまうのです。無理して饒舌(じょうぜつ)に語ると、つい調子に乗って「余計な一言」を口にしてしまうこともありました。
私が「本番に弱い」のは入試や面接といった、人生の重要事に限りません。スマートフォンのゲームですら「記録更新」がかかった場面となると、浮き足立ってしまい普段はしないようなミスをしてしまうほどです。
そんな私ですが、テレビ東京で番組をつくるようになって職場の先輩や同僚たちを見て、ふと気がついたことがあります。それは、人には「瞬発力型」と「熟考型」の2つのタイプがあるということ。
「瞬発力型」の典型はスポーツ中継です。「スポーツはシナリオのないドラマ」といわれます。中継を担当する番組制作者はあらゆる事態に備え、しかも瞬時に対応しなくてはなりません。選手の動きに合わせて、一瞬でカメラを切り替えるなどの判断を下さなくてはなりません。じっくり考えている時間など、まったくありません。まさに「瞬発力」が勝負の世界です。
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