「兎と狼」家康が信長に見せた驚異的な粘りの深み 従順でなく環境を観察し利用する賢さを持つ知将

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そうするうちに今川は、上杉謙信と北条・武田が敵対する事態に巻き込まれてしまいます。三国同盟の維持が最重要課題である今川は、この紛争に北条・武田に援軍を出さざるを得なくなりました。ここに至って、今川が西にいる自分たちに対して戦力を割くことができないと見切った元康は、三河の今川勢力に対しての攻撃を開始します。

ただし、この時点でも、まだ織田方に対して安易な妥協を行っていません。これは、少しでも良い条件を信長から引き出すためです。元康は、ここで妥協して信長に膝を屈し同盟を乞うのであれば、リスクを負ってでも独立を目指すという目標が達成できません。この最後の粘りが元康の尋常ではないところです。多くの方が経験していると思いますが、普通は方針が定まると、すぐにその方向に進みたいものです。

この元康の行動に今川方は激怒し松平家の人質を処刑します。それでも元康は慌てず、織田方との交渉に時間をかけました。結果的に織田・徳川の同盟が締結されるのは、桶狭間の合戦から2年後のことでした。

目標達成のために妥協せずやり抜く

元康のこの意思決定までの観察力は現代のビジネスにも応用できます。決裁権を持つ人間は、時間というものを最大限に使い、状況の「変化」を読み切るまで最終決定を焦らない。ぎりぎりまで引き延ばし、自分が状況をコントロールできるところまで粘る。そのうえで最大の利益を目指す。

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自由に使える時間がどんどん削られていくなか、面倒なことは簡単に片づけたくなりますが、その流れにただ身を任せるだけだとしたら、運が味方しないかぎり最大の成果は得られないでしょう。

元康が最終決定するまでの猶予を与えてくれたのは、もちろん第1回でも魅力的に描かれていた、元康の配下である松平家臣団の結束力と士気の高さ、そして強さです。もしもこれがなければ元康は早々に配下から切り崩され、あっという間に命を落としたでしょう。この家臣団の結束力と戦闘力は、その後の元康の最大の武器となっていきます。

眞邊 明人 脚本家、演出家

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まなべ あきひと / Akihito Manabe

1968年生まれ。同志社大学文学部卒。大日本印刷、吉本興業を経て独立。独自のコミュニケーションスキルを開発・体系化し、政治家のスピーチ指導や、一部上場企業を中心に年間100本近くのビジネス研修、組織改革プロジェクトに携わる。研修でのビジネスケーススタディを歴史の事象に喩えた話が人気を博す。尊敬する作家は柴田錬三郎。2019年7月には日テレHRアカデミアの理事に就任。また、演出家としてテレビ番組のプロデュースの他、最近では演劇、ロック、ダンス、プロレスを融合した「魔界」の脚本、総合演出をつとめる。

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