軍事問題となると、よりいっそう複雑である。東ドイツでは、ソ連軍の全面撤退というシナリオが施行されたが、核基地をもっていたウクライナは簡単にはいかなかった。ウクライナは核を持たない国となり、ソ連の施設は撤収されるが、ウクライナがロシアにとって重要な要衝であることは変わりがなかった。それは黒海への軍港がそこにあるからである。
とくにウクライナ南部地域には多くのロシアの軍事基地があり、ロシア人が住み着いていた。ウクライナ軍も独自の軍を1991年には設立させるが、武器や軍事施設は旧ロシアのものであった。アメリカに接近することで急造の新しい軍をつくっても、それがすぐさまうまくいくわけではなかった。
また一方で、この30年で進歩したロシア製の武器を購入することもできず、西欧に比べてだけでなく、ロシアに比べても軍事的に貧弱なものになっていたことも、確かである。
言語差別は少数民族を傷つける
言語問題も、大きな要因となっている。ソ連から分離したラトビアやエストニアでも、ロシア語を話す少数民族に対する言語差別が問題になっている。言語を統一することで国家を統一させることが、いかに少数民族を傷つけるかという問題は、世界中にある問題だ。義務教育から大学教育までどの言語を使うかで、排除された民族はあらゆる意味で市民権を失う。
ウクライナ出身でハーバード大学のウクライナ史研究家のセルヒ-・プロヒは、『ヨーロッパの門 ウクライナの歴史』(Serhii Plokhy,The Gates of Europe. A History of Ukraine,2015)の中でウクライナ語によるウクライナ統一を強調している。一方で、ウクライナ政府がウクライナ語以外を認めない政策をとったことが、大きな反対運動を起こしたことについては、あまり言及されていない。この書物は西欧から見たウクライナに関するもっとも都合のよい歴史書といえるかもしれない。
元スイス軍の職員で平和維持活動に従事した、ジャック・ボーの『オペレーションZ』(Jacques Baud,Operation Z,Max Milo,2022)は、この問題をウクライナ戦争のもっとも重要な要因だとして詳しく取り上げている。彼には、『フェイクニュースに支配される』(Gouverner par Fake News,2020)という書物もあり、西側の一方的な情報操作に極めて批判的だ。
とりわけこの書物では、中東戦争での情報作戦について書かれているが、すでに西欧社会自身が、プロパガンダの虜になっていることが暴かれている。
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