冷静に見て、ウクライナ戦争は来年どうなるのか 開戦から1年、世界大戦の可能性はゼロではない

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ウクライナ問題は、当初はこのウクライナにおける非ウクライナの処遇を巡る比較的小さな問題にすぎなかった。しかし、それは一方で東方へ拡大するNATOという問題へと発展している。

1699年、17世紀最後に結ばれたカルロヴィッツ条約(当時のオスマン帝国とヨーロッパ諸国との間に結ばれた講和条約。オスマン側が初めて、ヨーロッパに領土を割譲することになった)以後、西側の東進は長く続いている。それを資本の文明化作用、人権と民主主義の拡大という美名で呼ぶかは別として、東欧・ロシア地域を混乱に陥れていることは変わりがない。

今や問題はウクライナの問題ではなく、NATOとロシアという問題、いやそれ以上に、西側と非西側、先進国と非先進国との問題へと発展してしまっている。第3次世界大戦を恐れるのは、こうした拡大があるからだ。

世界全体が対立の時代に

GDPの規模からから見て、ウクライナ単体でのロシアへの勝ち目はない。だからウクライナは西側を引き込むしかない。しかし、そうなると世界大戦とまではいかなくとも東欧を巻き込むことになる。それは東欧諸国がもっとも恐れていることだ。

ポーランドへ打ち込まれたロシア製ミサイルの一件は、一瞬ひやりとさせられた。アメリカは慌ててロシアからの攻撃ではないと発表し、ウクライナ軍のものだと断定したが、戦争の拡大を恐れる以上、それは当然のことであった。

ウクライナがモスクワを攻撃することも懸念されている。ウクライナ問題から、本格的ロシアとの全面戦争になり、それがヨーロッパに飛び火する恐れがあるからだ。

とにかく急がれることは、停戦合意だろう。ただし、すでにロシアに併合された地域を取り戻すことは不可能だろう。ドニエプル側の西を維持すること、そして、ウクライナをNATOのミサイル基地にせず、中立の緩衝地帯にすることであろう。

そうでないとすると、ロシアからの全面攻撃を受け、ウクライナは破壊されつくすかもしれない。一方で、NATOが支援し続ければ第3次世界大戦になるかもしれない。とにかく難しい問題だ。ウクライナ国民は、国土と国民の破壊から国を守らねばならない。その意味でも、虚勢をはらず、大国に翻弄されることなく、停戦へと進む勇気を見せる時かもしれない。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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