「ウクライナ激戦地」でピザを売り続ける男の1日 砲撃音の中で「温めますか」というやりとりも

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実際、何千というウクライナとロシアの兵士が攻防を繰り広げ、双方に恐ろしい数の犠牲者が出ているバフムートでは、食べ物と気温は冷たくなる一方だ。

バスストップは1人で営まれているわけではない。細身でぼさぼさ頭のヴァシャ(70歳)は、バフムートの東側から歩いて出勤しているが、そこはワグネル・グループの傭兵を主体とするロシア軍が防衛戦の突破を狙う、バフムートでも最も危険な地域の1つとなっている。

砲撃音の中で交わされるやりとり

シュベドは、前のオーナーから店とともにヴァシャも受け継いだ。客はあまりに少なく、ヴァシャの仕事はほとんどないが、彼はそれまでの日課を守り、爆撃でめちゃくちゃになった地域を苦労して歩き、バフムートの中心にある大部分が破壊された橋を渡ってバスストップまでやってくる。

「ヴァシャは何でもこなしてくれる。まき割り、皿洗い、整理整頓。何から何まできちんと整えてくれる」とシュベドは好意的に語る。「彼はスーパーヒーローだよ」。

さらに料理人のイリーナがいなければ、バスストップは軽食堂としてまともに機能しない。バフムート中心部に住むイリーナは定期的に店にやって来ては、発電機やガスコンロを使ってミートパイやピザ、ペストリーを調理して帰宅する。

シュベドが戦時下でどのようにしてバスストップの営業を続けているかを説明していると、汚れたジャージーを着た1人の男性がミートパイとポークチョップを買おうと窓に近づいてきた。

シュベドは発電機を回して食べ物を温めようかと客に尋ねたが、客は断った。それまで遠方で鳴り響いていた砲撃の轟音が、一段と大きく、近くなっていた。時間は午後2時少し前。そろそろシュベドが帰路につく時間だ。彼は明日になれば何かが変わるとは考えていない。

(執筆:Thomas Gibbons-Neff, Natalia Yermak)
(C)2022 The New York Times

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