「ウクライナ激戦地」でピザを売り続ける男の1日 砲撃音の中で「温めますか」というやりとりも

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ロシア軍は6月にセベロドネツクを、7月にリシチャンシクを制圧すると、照準をバフムートに移した。それから数カ月でバフムートのバスは運行を停止。ロシア軍が接近する中、砲弾が頻繁に町に降り注ぐようになり、避難する人々の数もどんどんと増えていった。ジョーカーのドアは閉まり、窓には「閉店」という手書きの知らせがロシア語で掲げられた。

それでも、バスストップは店を開け続けた。

「冷たい食べ物では長く生きられない」

バフムートの人口は7万人ほどだったが、今では何人が残っているのかはっきりしない。12月にバフムートを訪れた際は、市西部の青空市場に数十人が集まる一方で、市内のほかの場所では多くの住民が冷たい地下シェルターや窓ガラスの割れたアパートなどに閉じこもっていた。

人々は、病気の家族、行き場がない、お金がない、親ロシアの感情、故郷への愛着など、さまざまな理由でバフムートにとどまっている。理由が何であれ、食べなければ生きていけないが、そのために外出するのには勇気がいる。

「人々はおびえている。外に出るのを怖がっている。1日中(店に)座っていても、来る客は5人くらいだ」。シュベドは激しい爆撃の日々について、そう語った。その前夜には、駐車場に落ちた砲弾でジョーカーの建物の一部が損壊した。

かつては大勢のウクライナ兵士で列ができたバスストップだが、今では地下壕から飛び出し、通りをさっと横切って注文の品を砲弾から守られた地下壕に持ち帰る何人かがいるだけとなっている。ピザは1枚約1ドル。味はなかなかのものだ。

「彼らの多くから『まだここにいてくれてありがとう』と言われるよ」。シュベドは兵士たちについて、そう言った。「実際、お湯もなければ、何もないからね。1日中何かをし続けていた彼らは、腹を空かせてここに戻ってくる。電気もなく、誰もが発電機を持っているわけでもない」。

そこでシュベドは、ボランティアから寄付された発電機を動かし、電子レンジを1分20秒にセットしてピザを温め、その後すぐに発電機を切る。

「冷たい食べ物では人は長く生きられない」とシュベド。

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