「ウクライナ激戦地」でピザを売り続ける男の1日 砲撃音の中で「温めますか」というやりとりも

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

シュベドは妻からの叱責を無視し、7歳の娘にも勤務先を隠しつつ、何とか軽食堂の営業を続けている。「犬猫たちを見捨てられない」と彼は真顔で言った。おこぼれを期待して店のまわりをうろつく野良犬や野良猫のことだ。

毎日午前8時頃、シュベドは隣町のチャシブヤールからバフムートまで車で移動する。この約25分の道のりで、少なくとも1回はウクライナ軍の検問所を通過することになる。毎日決まった時間に訪れる彼はすっかりおなじみになり、兵士から「なぜウクライナで最も爆撃の激しい都市に入ろうとするのか」と聞かれることもほとんどなくなった。

弾丸が連射される音が聞こえる店

軽食堂には名前がなく、その立地からシュベドは「バスストップ」または「ストップ」と呼んでいる。前のオーナーがバフムートを離れ、シュベドに鍵を渡した初夏から、この店を営んでいる。

その夏、バスストップを取り巻く状況は今とは異なっていた。バフムートはときどき爆撃にさらされる程度で、今とは様子がまるで違った。ロシア軍は、北東におよそ30マイル(約50キロメートル)離れたセベロドネツク市とリシチャンシク市の包囲作戦に兵力を集中させていた。

その頃、バフムートはウクライナ軍の兵站拠点で、民間人の数も戦争前に比べてそこまで大きく減っているわけではなかった。バスストップの最大のライバル店だった「ジョーカー」という店名のシャワルマ(ケバブ)を売るスタンドもまだ営業しており、とりわけ昼時にはどちらの店も客が途切れることはなかった。

「ご存じのように、夏以降、すべてが変わった」。11月末に店先で行ったインタビューで、シュベドはそう振り返った。遠くでは爆撃の音がこだまし、弾丸が連射される音が響いていた。「以前はここをバスが走っていたんだ」。

次ページ激化する砲撃でライバルは店をたたんだ
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事