1週間前の別れ話に一瞬舞い戻る彼女の超常体験 小説「コーヒーが冷めないうちに」第1話全公開(4)

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コーヒーを飲む女性
過去に戻れるのは「コーヒーが冷めてしまうまでの間だけ……」(写真:マハロ/PIXTA)
世界35カ国で翻訳、シリーズ320万部を突破している小説『コーヒーが冷めないうちに』。世界中で話題の本を、東洋経済オンライン限定の試し読みとして計3話、16日に分けて配信。第1話『恋人』の4回目をお届けします。
(1):交際3年目の彼氏と突如の別れ、取り戻したい時間(12月29日配信)
(2):交際3年目の彼と別れた28歳彼女が戻りたい過去(12月30日配信)
(3):1週間前、彼氏と別れた彼女が過去に戻りたい心境(12月31日配信)

「房木さんは過去に戻ってなにをしたいんですか?」

「えっ!」 

二美子は、房木も過去に戻るために自分と同じようにワンピースの女がトイレに行くのを待っていると知り、驚きの声をあげた。

その声を聞いて、高竹はチラリと二美子に顔を向けたが、房木は特に気にもとめていない様子である。高竹が「そうですか」と言うと「ええ」とだけ返事をして、房木はコーヒーをズズズと一口飲んだ。

(まさかライバル出現?)

二美子は動揺した。同じ目的であるならば、二美子は自分が不利である事を瞬時に理解したからだ。というのも、二美子がこの喫茶店に来た時、房木はすでにそこにいた。当然、順番であれば房木のほうが先という事になる。人として、順番を無視する事は二美子にはできない。ワンピースの女は一日に一回しかトイレに行かないのだから、チャンスは一日に一回だけとなる。すぐにでも過去に戻りたいのに、一日お預けになってしまうなんて、二美子には耐えられない。予期せぬ展開に、二美子は動揺を隠せなかった。

二美子は房木が本当に過去に戻るためにここにいるのかを確かめるため、体が斜めに傾くほど、あからさまに聞き耳を立てた。

「今日は座れましたか?」

「駄目ですね」

「そうですか」

「ええ」

二人の会話は二美子の悪いほうの期待を裏切らなかった。二美子の顔がゆがむ。

「房木さんは過去に戻ってなにをしたいんですか?」

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