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辞表を出す覚悟を決めた手痛いバグ
二美子が五郎と出会ったのは二年前の春だった。二美子、二十六歳。五郎、二十三歳の時である。
二美子が出向した勤務先に、別の会社から出向してきた五郎がいた。二美子はその出向先のプロジェクトでチーフを任されていた。
二美子はたとえ年上の先輩を相手にしようとも、仕事では一切妥協しなかった。それゆえ同僚や上司と言い争いになった事もある。だが、竹を割ったような性格と、努力を惜しまない仕事ぶりは評価されていたので、二美子の事を悪く言う者はいなかった。
五郎は、二美子より三つも年下でありながら、すでに三十代の落ち着きをかもし出していた。言葉をにごさずに言うと、老けて見えた。二美子は最初、年下と気づかずに敬語を使っていたほどである。
しかし、チームで一番若いにもかかわらず誰よりも仕事ができた。エンジニアとしてのスキルは高く、黙々と仕事をこなす姿は二美子でさえ頼もしく思ったほどである。
ある時、納期のせまった案件に手痛いバグが見つかった。バグとはコンピュータープログラムに含まれる誤りや不具合の事である。些細なバグだとしても、医療系のシステムにとっては致命的である。このまま納品する事はできない。しかし、バグの原因を見つけるといっても、それはまさに、二十五メートルプールに垂らした一滴のインクを蒸留し、取り出すよりも困難な事だった。しかも、時間はない。納期に間に合わなければチーフである二美子の責任である。
納期まで一週間。対応に最低でも一か月はかかるミスの発覚に、誰もが納期には間に合わないとあきらめ、二美子も辞表を出す覚悟を決めていた。
そんな中、五郎が出向先に姿を見せなくなった。連絡もつかない。それゆえ誰もがこのバグは五郎のミスではないかと勘ぐりはじめた。責任を感じて出てこなくなったのだと。もちろん、五郎のミスだと確定したわけではない。ただ、負うべき責め、過失が重大であればあるほど、人は誰かのせいにしたくなる。出社しない五郎は格好の責任転嫁の的だった。当然、二美子もそうかもしれないと疑いはじめていた。
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