母親が失踪し妹弟と6人で暮らした18歳少女の現実 家事や学校の手続きも「母の代わり」にやった

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ここでも「あんたにだけは〔お母さんが〕全部話してる」と、(実際には何も伝えていないのにもかかわらず)大谷さんに「母の代わり」を担わせている。つまり母親が失踪して不在になっているときにも、大谷さんは母へのケアを担っているのだ。

「やくざ」への返済に同伴

大谷さん:それで、生活保護受けてたので、月末ぐらいやったかな。「明日か明後日に保護費入るから、とりあえずそれで返しに来るからきょうは帰してくれ」と泣きついて。なんか〔おっちゃんが〕電話とかしてるんですよ、どっか連れていくみたいな。「いやいや、ちょっと」ってなって。それで「返しに来るから、とりあえずきょうは帰してください」って〔私は〕言って、帰してもらって。
すぐ里来て、すぐデメちゃんに言うて、デメちゃんが次の日、保護費入りました。一応、入って持っていったんです。で、デメちゃんが「ついていったる」って言って、ついてきてくれて、向こうも手のひら返して、向こう。弁護士さんの話とか、「借用書どこにあんの?」とか、〔デメちゃんが〕いろいろ言うてくれて。やりとりをデメがしてくれて、「利子どうなってんの?」と、「とりあえず、まずそれ見せて」。
ほんなら向こうも、なんか、「すみません」みたいな、「用意しときます」みたいな。〔……〕「とりあえず元本だけ返そうか」みたいな話になって、毎月返しに行って。そのときは必ずデメちゃんに付いてきてもらって、怖いからっていうことをしつつ。しかも、保護費から返して。で、ここ〔=こどもの里〕でご飯作らしてもらったりとか、ここでご飯食べて。

子どもが失踪した親の借金を返すというのもまた、(とりわけ母親が「あんたにだけは全部話してる」ことになっているがゆえに)ケアすることなのだ。不在の母親をケアするという奇妙なケアがここでは成立している。

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借金の返済もまた、母親へのケアとして想定される範囲を逸脱する社会的なハンディである。この逸脱した部分でのサポートは、子どもだけで対応できるものではない。これをこどもの里の荘保さんが支えることになる。

「デメちゃんが『ついていったる』って言って」と、居場所であるこどもの里から同行支援するアウトリーチのサポートが行われている。「やくざ」への返済に同伴するという過激な同行支援である。居場所とアウトリーチが組み合わさることが、ヤングケアラーに限らず地域での親子支援では鍵になる。

「デメがしてくれて」というサポートと、「デメちゃんに付いてきてもらって」というSOSを出す力とが組み合わさって、大谷さんは生き抜いている。荘保さんは、大谷さんが必要としている部分を補い、力を発揮させる。つまり潜在的に力を持っている大谷さんを補強する。ヤングケアラーは的確なサポートを得ることで本来持っている力を発揮する。

(この記事の後編に続く)

村上 靖彦 大阪大学大学院 人間科学研究科教授

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むらかみ やすひこ / Yasuhiko Murakami

1970年東京都生まれ。大阪大学人間科学研究科教授・感染症総合教育研究拠点(CiDER)。2年、パリ第7大学で博士号取得(基礎精神病理学・精神分析学)。13年、第1回日本学術振興会賞。専門は現象学。著書に『母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践に学ぶ』(講談社選書メチエ)、『在宅無限大 訪問看護師がみた生と死』(医学書院)、『子どもたちがつくる町 大阪・西成の子育て支援』(世界思想社)、『交わらないリズム 出会いとすれ違いの現象学』(青土社)、『ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと』(中公新書)など多数。

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