母親が失踪し妹弟と6人で暮らした18歳少女の現実 家事や学校の手続きも「母の代わり」にやった

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大谷さん:6年生になってから、そこの家賃がもう払えなくて、追い出されて、こっちの新今宮にある、今もまだ建ってはいるんですけど、そこもワンルームなんですけど、ワンルームマンションに、父親除く家族6人で暮らしてて、そこから今宮中学に行ったり、弟たちは転校して萩之茶屋や の小学校に行くようになったりとかしてましたね。
父も収入がほぼほぼないし、その日、その日やし、よく母とはけんかしてましたけどね。お金のこととかでけんかしたりしてはいましたね。母も、自分も田舎から出てきて、もう着の身着のまま出てきた感じの人やったし、父も田舎と全然ほぼ交流がなかったので、そういう〔実家に〕助けてもらうのは全然できなかったですし。だから、まあまあ厳しい。1日3食なんて食べられへんかったし。でも、父がギャンブル行く人で、勝ったら焼き肉とか、おすしとか、動物園前商店街で食べたりはしましたけど。
母も、そのときは全然仕事はしてなかったので、そのドヤのお手伝い。お掃除したりとかして、ちょっとお金もらってたんちゃうかなと思うんですけど。管理人さんはすごいいい人やったというか、やったので。

日払いの家賃が払えなくなるほどの貧困だったことが分かるが、大谷さんはとても丁寧な言葉づかいでおだやかに語る。語られた状況の過酷さとのギャップが印象的だった。

ここで語られているのは、大谷さんがヤングケアラー役割を担うことになるベースとなる家族状況だ。すなわち、父親と母親の不安定な就労と貧困、頼ることができる親類がいないという紐帯の不足である。このあとの語りでも「~やし」と「~し」が重なるのは家族の困難の描写が連続する場面である(こどもの里について語るときには登場しない)(※注1)。

このあと、大谷さんきょうだいはこどもの里とつながることで、生き延びていく。つまり家族のサポートの不足を、この地域が持っている社会的紐帯で補っている。インタビューでは最初に8歳のときのこどもの里との出会いが語られたのだが、ここでは先回りして、まず大谷さんがどのようにヤングケアラー役割を担っていたのかを記したい。こどもの里はこの役割を支える土台として働くことになる。

抗うことすら、思い浮かばない

大谷さんは「あまり、親の手料理は覚えていません」と言う。母の代わりにワンルームに移った中学生の頃から家事を行い、高校生の頃には生活保護の受け取りなどの手続きも担って、弟たちの生活を支えていくことになる

村上:どうしてそう〔大谷さんがヤングケアラーに〕なったって、どうしてっていうのは変だけど。
大谷さん:どうしてそうなった? 自然に。別に。どうして? 自然にそうなった。一番上なのでっていうのもありますし、役所のこととか全部してきたの自分自身やし、デメちゃん〔子どもの里の代表・荘保共子さん〕も付いてきてくれたりとかして、本当に1人でも行けるようになったりとかしたりしたんですけど、自分が。
母も「行ってきて」って言うわけですよ。母がおったときも、生活保護、多分、銀行じゃなくて、〔区役所に〕もらいに行かないといけなくて。母は、もう出るのがやっぱりしんどかったりとか、ちょっとうつになったりとか、浮き沈みがやっぱりある人で――今もあるんですけど、ときどき、泣きながら電話かかってきたりするんですけど――だから「行ってきてほしい」とか。
でも、お金にちょっと困ったら、「デメちゃんに借りてきてほしい」とかいうのもよく頼まれましたし、自分でよう行かん人で。ほんなら、それ借りに行かんとご飯食べられへんから、私が行くしかないし。ほんなら、渋々デメちゃんも貸してくれたりとかっていう感じですかね。自然にそうなってしまいますよね。嫌でしたけどね。だから、今でもお世話になってることもあるし、デメちゃんに。
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