自衛隊の装備稼働率が防衛費増でも向上しにくい訳 装備調達の構造的欠陥を放置したままでいいのか

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使っている機体をIRANに出すならば予備の機体を部隊で使う。対して陸自ではそのような予備の機体が存在しないので、IRANに機体を出すと、部隊で使う機体が減ってしまう。

だが陸自は18機しか調達しない。このため仮に整備状態が良好で稼働率100%であってもつねにIRANに出している機体が欠如しているので稼働率は低いままだ。必要な機数が揃うことはありえないのだ。

これは小銃も同じだ。仮に中隊で100名分の小銃が必要ならば100丁しか調達されない。だが小銃も一定期間使用していると歪みが出たり、部品の摩耗などで故障が起きやすくなったりする。

このため歪みを直したり部品を交換し、表面処理をし直したりする。海空自衛隊ではメーカーにそれを依頼している。陸自では補給処でそれをやることになっているのだが、隊員の数しかないので、よほどひどく壊れでもしない限り、このようなメンテナンスは行われない。このため陸自の小銃その他の小火器は整備不良で信頼性、命中精度が低く、故障する可能性が高い。また表面処理が剥げて地金がみているので、実戦では敵に発見されやすい。

実戦でも問題になる

このような予備装備が存在しないことは実戦でも問題だ。戦争になって部隊が被害を受けたり、装備を放棄して撤退したりした場合、代わりに支給する装備が存在しない。国産装備は戦時に生産できるというのは空論にすぎない。ベンダー含めて、メーカーの工員が急に増えることはないし、コンポーネントは輸入品も多い。小銃にしても現在調達中の20式小銃は弾倉などのコンポーネントは輸入品である。

このように予備の装備を含めて調達計画を立てていないのは、実戦を想定していないからだろう。悪く言えば平和ボケだ。予算捻出が必要ならば本来部隊を縮小してもそれを行わなければならない。陸自では隊員の数も足りない。定数の6割程度の部隊がゴロゴロしている。装備があっても隊員がいない。であれば、部隊数を減らして隊員の充足率をあげ、十分な予備の装備を調達することが求められる。

このように調達や予備機材の問題など、いくら防衛費を増やしても稼働率が上がらない構造的な欠陥が防衛省、自衛隊には存在する。だが、政府自民党、そして防衛3文書においてもこのような自衛隊の構造的な欠陥に対する問題意識は見えてこない。防衛費を増大する前にこのような問題を根本的に改善する組織改革こそが必要だ。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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