自衛隊の装備稼働率が防衛費増でも向上しにくい訳 装備調達の構造的欠陥を放置したままでいいのか

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諸外国では装甲車両や小火器でも5~10年程度のサイクルで調達する。それはメーカーのラインを維持しながらも、できるだけ早く、全量を調達して速やかに戦力化するためだ。だが特に陸自では30年もかけることが珍しくない。30年後に全数がそろってもそれはすでに旧式化しているし、初期生産分は故障が増えるので稼働率も低くなる。

このため諸外国では装甲車輌などは古くなるとリファブリッシュ(修理・調整して準じる状態に仕上げること)することが多い。装甲車の車体は丈夫でほぼ劣化しないが、エンジンを新品に換装し、電気系統の配線や部品などを全部取り替える。あるいは同時に近代化する。例えばヘッドライトを電球からLEDなどに変えれば、電球切れを起こさずに長期間使用できるようになる。このようなことを自衛隊ではあまりやらない。P-3C哨戒機などの航空機にしても主翼を新造品と交換すれば機体寿命は新品と同等となり、故障率も大幅に減る。

陸自に限らず自衛隊では長期にわたって、細々と調達するために同じ型式でも古くなった装備ほど稼働率が落ちる。また調達の途中でリファブリッシュや近代化をほとんど行わないので、稼働率も能力も落ちる。好例は74式戦車や90式戦車だ。これらは消化器なども期限切れのものが使用されている。

新旧装備の混在長期化も

そして長期にわたる調達は古い装備と新しい装備の混在が長期にわたることでもあり、その間兵站や訓練も二重となってコストが高くなる。戦車など74式、90式、10式と3世代あり、これに装輪の16式機動戦闘車を含めれば4種類になる。これまた整備費が不足し、稼働率が低下する原因となっている。

装備品の維持整備費 防衛装備庁
(出所:防衛装備庁)

普通他国の軍隊ではどんな装備が、何故必要か概要を説明し、どの装備が必要で、それを何年間で調達、戦力化し、総額はいくらかという計画を立てて議会で承認をうけてメーカーに発注する。だが一般に防衛省、自衛隊では初年度の発注数だけを予算要求する。これは国際的に見て極めて異常だ。

装備調達は民間企業でいえば設備投資だ。なぜその工場が必要で、いつからその工場が稼働して、投資総額はいくらか。それを役員会が知らずに初年度の投資を了承することは一般企業だとまずありえないことだろう。

筆者は防衛大臣経験者に、この長期すぎる調達の問題を質したことがあるが、何の問題があるのか理解できないとの答えだった。政治家は防衛大臣でも調達や稼働率に関する理解度が低いことが多い。

そして陸自が空海自や他国の軍隊と大きく異なるのが、航空機から小銃に至るまで装備を部隊定数分しか調達しないことだ。例えば飛行隊で定数18機のヘリコプターが必要だとしよう。海空自衛隊では18機に加えて予備機も調達する。それはIRAN(Inspection and Repair As Necessary:機体定期修理)が必要だからだ。

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