32歳がんで逝った母が娘に残したノートの正体 双子の娘への「だいすきノート」を手にした経緯

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絵画館が近くに見える噴水池のあたりで、スマートフォンを頭上に掲げ、自撮りのために頰を寄せ合った。液晶画面を見つめて笑う2人の後ろで、青山通りの方向へ整然と立ち並ぶイチョウの木の葉が、半逆光の日差しを受けて、あたたかそうに光っていた。

少し歩いたら、並木脇にあるバーガーショップに入り、チーズとトマト、レタスをはさんだバーガーとポテトを注文した。さほど寒くなかったので、テラス席に落ち着いた。みどりさんはバーガーを三分の一くらい口にして、あとはこうめいさんが食べた。

「以前、横須賀に行ったときにもこんなバーガーを食べたね」

「そうそう、あれもおいしかった。どっちが好き?」

そんな話をした。

看護師から手渡された2冊のノート

脇に置いたリュックの中には、2冊のノートが入っていた。この日の朝、病院で看護師の近藤咲子さんから手渡されたものだ。A5判の冊子で、16ページのカラー版。表紙には、「だいすきなあなたへ おやこでいっしょに てづくりノート」とあった。

子どもが生まれたときの思い出、うれしいとき、悲しいときに届けたい言葉、子どもへの感謝の言葉──。シールも使って子どもと一緒に遊びながら、メッセージを自由に書き込む形式になっていた。

ノートはもっちゃん、こっちゃんの分、それぞれ1冊ずつ。近藤さんはみどりさんに向かって、「子どもたちと一緒に、やってみない?」と言って差し出した。

みどりさんは、「かわいいですね!子どもたちも喜びそうです」と笑顔で受け取った。ただ、こうめいさんの目には、「どうやら、妻は心から喜んでいるわけではなさそうだな」と映った。どちらかというと、受け流しているようだった。何かを示されても、あんまりうれしくないとき、あるいは、さほど関心を引かれないとき、みどりさんがこれまでに見せていた反応と似ていた。

みどりさんが、ノートの趣旨をどう受け止めたのかはわからない。でも、こうめいさんが見る限り、このノートの大きな目的は、「病気で亡くなっていく親が、残される子どもにメッセージを書き残すもの」だと思われた。

であれば、妻に死を連想させ、不安を招いてしまう。だから、いまは本人にはすすめられないな、と思っていたところだった。だから、イチョウ並木を散歩しているときも、ノートのことは話さなかった。

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