東急役員が解説「東急沿線」"2023年住みやすい街" 蒲田、新綱島、鷺沼――いい所悪い所すべて検証

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工業地帯であった蒲田は、戦中アメリカ軍の格好の標的となり、空襲により完全な焦土と化しました。それでも高度経済成長期には、日本経済を牽引する大手メーカーの下請けとして蒲田の町工場が大活躍。地域は活況を呈しました。ブルーカラーが活躍する街として、駅周辺にも安くておいしい飲食店や物販店などが多数集積して、いまでも独特の雰囲気を有しています。

東急電鉄は、蒲田に池上線と多摩川線の二線の駅をもっています。歴史的には池上電気鉄道と目黒蒲田電鉄という別々の鉄道会社でしたが、1934年に目黒蒲田電鉄が池上電気鉄道を買収したことにより、両線のホームは連絡することになります。

戦災で一時運転休止していた時期を経て、戦後復興の中で国鉄側も東急側も駅ビル化され、ほぼ現在の形になりました。

非常に活気ある街ですが、東西の街がJRの線路で分断されているのと、歩行者空間や広場空間、緑が不足しているという地域課題を抱えています。

またJR、東急ともに駅ビルが老朽化してきているので、将来の建て替えを機に、東西の往来をしやすくするとともに、新たな交通結節機能を導入することがグランドデザインの中で検討されています。

計画されている新空港線で羽田空港に出やすくなり、JR蒲田・東急蒲田駅と京急蒲田駅との距離を縮めることができたとしても、蒲田の街自体を通過されたのでは意味がありません。

現状でも問題は山積みです。駅東口周辺は、飲食店やホテルなどもたくさんある、活気あるエリアですが、高いビルは少なく、街路も狭く、雑居ビルは老朽化しており、防災性にも大きな課題が残ります。

北の赤羽と並ぶ飲み屋街として愛される街ですから、そこそこ商売もやっていけているので、目標をひとつにして街の再開発に取り組んでいくための合意形成が簡単な場所ではありません。新空港線の実現に向けての新たなステップを登ったいまこそ、新たなまちづくりの方向性を固めていくよいタイミングかもしれません。

2020年には蒲田駅前東口の目の前に立地する15街区、16街区、17街区をまとめて再開発していくための「蒲田駅東口駅前地区市街地再開発準備組合」が発足し、東急も参画します。まだ先は長いですが、これから時間をかけて東口駅前に相応しいまちづくりの方向性がまとめられることでしょう。

アフターコロナに住みたい街とは

コロナ禍によって、人の意識と行動は大きく変容しました。これまで通りにただ再開発してビルを高層化して、オフィスや商業施設を誘致するだけではいずれたちゆかなくなります。

どの街もその地域の実情を理解した上で、地域の特性を活かした多世代に響く開発コンセプトを練り上げねばなりません。もちろんそれは簡単なことではありません。

しかし、これから自分が居住する、あるいは一番長い時間をすごすであろう場所を、より快適で居心地よく、楽しく、安心安全な街に変えるには、自分の街の置かれている状況をよく知り、考えることが大事です。

あなたが住む街をよりよくできるのは、あなた自身なのです。

東浦 亮典 東急株式会社 常務執行役員

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とううら・りょうすけ / Ryousuke Touura

1961年東京生まれ。1985年東京急行電鉄入社。自由が丘駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。その後一時、東急総合研究所出向。復職後、主に新規事業開発などを担当。執行役員都市創造本部運営事業部長を経て、現職。渋谷駅周辺の開発戦略、開発計画、エリアマネジメントなどを統括する。著書に『私鉄3.0』(ワニブックスPLUS新書)がある。

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