親が「ドリームキラー」の子に見えがちな問題行動 親の価値観の押し付けをしていませんか?

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教え子の大学生に「講義の中で心に響いたエピソードは?」と問うと、毎年この話が上位になります。「人生を地図で考える」という話です。

「逃げることは、決して悪いことでも、卑怯なことでもありません。私たちは、人生を一本の道のように考えてしまいます。だから、立ち止まったり、後ろに下がることを悲観し、自己卑下してしまう。でも、人生はそんな単純な一本道ではありません。

人生を『地図』で考えましょう。鳥のように空から見れば、道はいくらでもある。まっすぐの道だけでなく、斜めの道も、回り道もある。よく見れば獣道があったり、船で渡れる場所もあったりするかもしれない。

人生の道は、星の数ほどあるのです。だから、立ち止まることも、後ろに下がることも、自分の人生にとってはプラスに働くことが山ほどある。下がったことで、自分が本当に進みたい道を見つけることのほうが多いくらいです。人生を、地図で考えましょう。一本の道でつまずいたからといって、『私の人生はもうだめだ』と決めつけることはやめましょう」

これを聞いて、志望していた銀行に落ちた学生が、子どもの頃から好きだったエンターテインメントの世界に進んだ。広告会社に落ちた学生が、父の働く姿を見て「僕もメーカーが合っているかも」と気づいた。社会に出てからも、人生を「地図」で考えて、転職やキャリアップにつなげてくれている教え子がたくさんいます。

親孝行の何が悪いんですか?

反対のケースもあります。押しも押されもせぬ名門大学の学生が、就活面談に来ました。「なぜ、この会社を志望するのか」と尋ねたところ、「母が、この会社がいいというもので」と堂々と答えるのです。一瞬、意味がわかりませんでした。

彼曰(いわ)く、「子どもの頃から、お母さんを喜ばせることが好きだった。喜んでもらえると、なんとも言えずうれしかった。就活をするにあたって、相談したところ、この会社がいいと推薦してくれた。自分なりに調べた結果、確かに私の進みたい道と一致していた」。私が少し否定的なことを言ったところ「親孝行のどこが悪い?」と反論してきました。

これは極端なケースではありますが、学生の中には多かれ少なかれこういう子がいます。自分で夢を持てず、何がやりたいのか、どんな生き方をしたいのか、わからない。結局は、親の勧めるままに行動してしまう。親が敷いた一本道の上を歩くことが、摩擦も少なく、いちばん無難だと思ってしまう。

もちろん、それで自分の人生を歩んでいく人もいるでしょう。しかし少なからず、ただぼんやりと親の敷いた一本道を歩き、やがて「こんなことで私の人生はいいのか」と悩み出す。道の途中でうずくまり、人が渦巻く社会の中で生きるのが苦しくなってしまう人がいるのです。

次ページ盲目的な愛情、無意識の思い込みが作る、ドリームキラー
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