魚が獲れない時代に「鹿児島・垂水」から学べる事 日本一のカンパチは漁業者たちの姿勢が作った

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その後、漁民が一丸となって「魚価が高く、他があまり手掛けていないカンパチ養殖を始めよう」と決断。カンパチは稚魚が高価で寄生虫が付きやすいため、養殖にはハードルが高い魚だった。漁場の錦江湾は江ノ島が南西の強い波から守ってくれるため、カンパチの稚魚生育には比較的適していた。

江ノ島と桜島を望む漁場(写真:著者撮影) 

しかし、カンパチ生産量が軌道に乗り、伸びていくと同時に、他のエリアでも取り組むところが増え、再び供給増による価格低迷が始まってしまう。「他と同じことをやっているだけではだめだ」「自分たちの魚に付加価値を付けて高く売らなくては」と、共通した危機感の元に今度はブランド化へと大きく舵を切った。

ブランド化を意識した当時、鹿児島県内のみならず日本国内でもまだ養殖カンパチのブランドはなかった。先駆けてのブランド化は価格の向上や販路拡大のうえで大きな力になると考え、漁協で協議しながら取り組んでいった。

稚魚の導入から出荷までの養殖履歴を明確にするためのトレーサビリティを構築。より肉質が良くおいしいカンパチを作るために、飼育試験と食味試験を重ねて、鹿児島県茶葉と焼酎を配合した特殊配合飼料が生まれた。これをカタクチイワシやアジなどの冷凍餌に添加して与える。

特に茶葉の力は大きく、身のビタミンEの増加、コレステロール含量の減少が見られた。さらに茶葉のカテキンが血合いの変色を防ぎ、きれいな赤色を保つ役割を果たしてくれる。鮮度も見た目も良くなるのだ。

魚の鮮度を化学的に判定する方法として魚類鮮度判定恒数(K値)が用いられており、 K値が低いほど生鮮度が良いことを示している。茶葉を与えたカンパチは、他のカンパチと比べて時間が経ってもK値が低く、鮮度が保持されることが実験でもわかった。

2004年、垂水のカンパチは「かごしまのさかな」ブランドに認定された。「海の桜勘」の名前はこの時に公募で選ばれた。カンパチの身の桜色と、桜島を望む漁場で育ったことにちなんで付けられている。

漁協直営レストラン「味処 海の桜勘」もオープンして、消費者が産地で新鮮なカンパチを楽しめる場所ができた。刺身や炙り、漬け丼、カマ焼き、あら煮、フライとさまざまな調理法のカンパチメニューが提供されている。地元客から観光客まで幅広く人気のスポットになった。

さらに同年、HACCP対応型のフィレ加工場を稼働。ネット通販やゆうパックとの提携など、さらに販路を拡大していった。出荷量はブランド認定前の年と比較して約30%増加。販売先業者数は約2倍になり、漁業者が活気づいた。

新しい市場を求めて海外へ

現在垂水市漁協が注力するのは輸出である。主な輸出先はアメリカ。アジア方面の営業にも力を入れており、垂水市漁協の篠原重人さんは、タイでカンパチの解体ショーやロサンゼルスでのフードショーでのPRを務める。

「国内市場は今、飽和状態にあると思います。だからそこで競い合うよりも、開拓していないところを目指した方が伸びしろはあります。これからは海外に対するアプローチを重点的にしていかざるを得ないですね」

日本人一人当たりの水産物消費量は近年減少傾向にあるが、国際的には増加傾向にあり、これからも増加していくと予測されている。 

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