魚が獲れない時代に「鹿児島・垂水」から学べる事 日本一のカンパチは漁業者たちの姿勢が作った
また、2011年に水産庁が始めた漁業収入安定対策事業「積立ぷらす」ができたことにより、多くの漁業者が救われたと垂水市漁協の永野哲也さんは話す。「積立ぷらす」は漁業者の収入が減少した場合に、国と漁業者がそれぞれ拠出した積立金によって損失を補填する仕組みだ。加入条件には稚魚の導入数制限を設けており、需給バランスや適正な養殖を考えた取り組みでもある。
「漁業者からは助かっていると好評です。魚の市場価格はどうしても乱高下しやすいので」
お客さんの顔が見られる機会を
垂水市漁協の道のりを辿っていくと、養殖の試行錯誤、災害対策、ブランド化、販路拡大、設備投資と、常に今よりも先を見据えた努力を休みなく続けてきたのがうかがえる。漁業者はその中で災害リスクに直面し、先を見据えて動き続けないといけない現状であるともいえる。
「自然の摂理には逆らうことができません。長年携わっていても、その年その年の波や潮の速さに驚くことがあります。時にはくじけそうになったり打ちひしがれるときもありますが、でもそれでもなんとかやっていこう、きっと大丈夫だと諦めない心が漁業者ひとりひとりにあるように思います」
また、漁業者として販路拡大や付加価値を付けて売る努力を続けながらも、原点の「おいしいカンパチを食べてもらいたい」という気持ちは何よりも大切だと篠原さんは言う。
「トレーサビリティでお客さんは生産者の顔を見られるけど、作る側もお客さんの顔が見られるような機会を今後増やしていかないといけないと思っています。そこに大切なことがあるように思います」
垂水市漁協では、修学旅行生を民泊で受け入れ、カンパチの養殖現場を体験してもらう活動を行っている。養殖場での餌やりから加工場、捌いて食べるところまで体験できる。さらに、毎年漁港で「垂水カンパチ祭り」が開催される。魚離れと言われる今、もう少し魚に近づいてもらいたい、関わる機会を持ってほしいとの思いから生まれた活動だ。
篠原さんは今、カンパチに適した餌の追求にさらなる情熱を注ぐ。魚の加工残渣を取り寄せての試行錯誤を繰り返している。
「例えば魚の開きを作ったときに頭や中骨が残渣で出ますよね。そういった食品ロスを活用していくことはSDGsの観点からも必要な取り組みだと思います。僕は飼料メーカーにこうしたい、ああしたい、といろいろお願いしていて面倒くさい客です。でも、協力してやってくれる会社があってありがたいです」
スーパーで見かける刺身や魚の切り身の裏側に、生産者たちのたゆまぬ奮闘がある。手に取る際、調理する際に少し思いを馳せれてみれば、一皿の料理がぐっとありがたく、おいしく感じられるのかもしれない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら